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松林班

松林班・論文発表

植物免疫の活性化に関わるタンパク質分解酵素を発見

Matsui, S., Noda, S., Kuwata, K., Nomoto, M., Tada, Y., Shinohara, H., and *Matsubayashi, Y.

Arabidopsis SBT5.2 and SBT1.7 subtilases mediate C-terminal cleavage of flg22 epitope from bacterial flagellin.

Nature Commun., 15, 3762 (2024) Linkプレスリリース

植物は、病原細菌が移動する上で重要な器官であるべん毛の構成タンパク質であるフラジェリンを認識して免疫応答を開始します。このとき、フラジェリンはタンパク質全体が認識されるわけではなく、その中の一部分のペプチドが認識されることで、免疫が誘導されます。この免疫誘導ペプチドは、植物のプロテアーゼによってフラジェリンが断片化されることで生じると考えられてきましたが、実際にフラジェリンがどのように断片化されるのか、また植物に多数存在するプロテアーゼのうちどれがフラジェリンの断片化に関わるのかについては分かっていませんでした。本研究では、フラジェリンが植物の酵素によってどのように断片化されるかを明らかにし、さらに、植物のプロテアーゼSBT5.2とSBT1.7が、フラジェリンを断片化して免疫誘導ペプチドを切り出す過程に関わることを突き止めました。これらの結果は、植物が病原細菌を認識するしくみ理解する上での重要な手掛かりとなり、病気に強い植物の作出などの農業的応用につながることも期待されます。

Okawa, R., Hayashi, Y., Yamashita, Y., Matsubayashi, Y., and *Ogawa-Ohnishi, M.

Arabinogalactan protein polysaccharide chains are required for normal biogenesis of plasmodesmata.

Plant J., 113, 493-503 (2023) Link

植物のストレス応答と成長のトレードオフを制御するペプチドホルモンの発見

Ogawa-Ohnishi, M., Yamashita, T., Kakita, M., Nakayama, T., Ohkubo, Y., Hayashi, Y., Yamashita, Y., Nomura, T., Noda, S., Shinohara, H., and *Matsubayashi, Y.

Peptide ligand-mediated trade-off between plant growth and stress response.

Science, 378, 175-180 (2022) Linkプレスリリース

植物は、自然環境下における病害・温度・塩などの様々なストレスに適応するために、成長に使うエネルギーの一部を状況に応じてストレス応答に回すしくみを持っており、「成長とストレス応答のトレードオフ」と呼ばれます。本研究では、ペプチドホルモンPSYとその受容体PSYRが、細胞間シグナリングを介してストレス応答のONとOFFを切り替えていることを発見しました。非常に興味深いことに、受容体PSYRはリガンドであるPSYが結合していないときに活性化してストレス応答に関連する多数の転写因子群の発現を誘導し、逆にPSYの結合によって不活性化されます。普段は全身の細胞で発現しているPSYのはたらきにより、ストレス応答は抑制されていますが、この通常とは逆の活性化メカニズムによって、植物は巧みなストレス応答能力を発揮します。すなわち、組織の一部が環境ストレスによってダメージを受けて代謝不全になるとPSYが生産されなくなり、局所的にリガンド濃度が低下します。その結果、ダメージ部位の周辺部の細胞においてのみPSYRが活性化してストレス応答が誘導され、効率よくダメージの拡大を防ぐことができます。PSYとPSYRのはたらきによって、植物は不均一な環境ストレスに巧みに適応しています。


硝酸イオン輸送体NRT2.1の活性をオンにする脱リン酸化酵素を発見

Ohkubo, Y., Kuwata, K., and *Matsubayashi, Y.

A type 2C protein phosphatase activates high-affinity nitrate uptake by dephosphorylating NRT2.1.

Nature Plants, 7, 310-316 (2021) Linkプレスリリース

窒素は植物の成長に最も重要な栄養素のひとつであり、土壌中に存在する硝酸を主要な窒素源として根から吸収しています。この硝酸吸収の過程で主要な役割を担うのが、根の表面に存在する硝酸イオン輸送体NRT2.1です。NRT2.1の活性はリン酸化修飾によってオフとなることが知られていましたが、この過程の可逆性や制御に関わる酵素についてはよく分かっていませんでした。今回の研究では、NRT2.1を脱リン酸化して硝酸吸収活性をオンにする脱リン酸化酵素CEPHを発見し、この過程が可逆的であるとともに、窒素欠乏に応答した硝酸吸収制御の重要なスイッチング機構であることを示しました。植物は窒素が十分あるうちにNRT2.1を多めに合成して不活性型でストックしておき、窒素不足になった時にCEPHを使って活性化することで、変動する窒素栄養環境に巧みに適応していることが明らかになりました。