注目の論文
注目の論文
Ishikawa, K., Xie, X., Osaki, Y., Miyawaki, A., Numata, K., and *Kodama, Y.
Bilirubin is produced nonenzymatically in plants to maintain chloroplast redox status.
Sci. Adv., 9, eadh4787 (2023) Linkプレスリリース
ビリルビンはヒトなどの動物の血液に含まれるヘムの代謝産物として知られ、黄疸の原因物質として有名な色素です。人体においてはヘムの多くが赤血球中のグロビンというタンパク質に結合した「ヘモグロビン」として存在し、酸素を全身に輸送する機能を果たしています。一方で、血液が分解される際には、グロビンタンパク質から外れたヘム(遊離ヘム)が発生しますが、これが強い毒性を有することが知られています。そこで動物は、酵素を使って遊離ヘムを分解するシステムを有しています。動物では、遊離ヘムはビリベルジンという物質になった後、最終的にビリルビンに代謝されます。植物は血液を持ちませんが、動物と同様にヘムを有し、ヘムは酵素と結合することで、光合成や呼吸などで重要な役割を果たしています。しかし植物における遊離ヘムは、葉緑体内の酵素によってビリベルジンに変換されるものの、動物とは異なり、ビリルビンには代謝されないと考えられてきました。本研究では、ビリルビンに結合した際に蛍光を発するニホンウナギ由来UnaGタンパク質を用いて、様々な植物種でビリルビンが作られることを発見しました。また植物ビリルビンは、光合成の際に大量に発生するNADPHという物質と反応して非酵素的に作られ、酸化ストレスの低減に働いていました。この非酵素反応を介したメカニズムは、植物が変動する光環境に迅速に対応するために発達させたものと考えられます。
Aihara, Y., Maeda, B., Goto, K., Takahashi, K., Nomoto, M., Toh S., Ye, W., Toda, Y., Uchida, M., Asai, E., Tada, Y., Itami, K., Sato, A., *Murakami, K., and *Kinoshita, T.
Identification and improvement of isothiocyanate-based inhibitors on stomatal opening to act as drought tolerance–conferring agrochemicals.
Nature Commun., 14, 2665 (2023) Linkプレスリリース
植物の表皮には気孔が数多く存在し、植物はこの孔を通して光合成に必要な二酸化炭素を取り込み、蒸散や酸素の放出など、大気とのガス交換を行っています。気孔は一対の孔辺細胞により構成され、太陽光に含まれる青色光などに応答して開口します。孔辺細胞に青色光が照射されると、青色光受容体フォトトロピンが活性化し、細胞内シグナル伝達を経て細胞膜プロトンポンプを活性化し、気孔開口の駆動力が形成されますが、青色光がどのようにプロトンポンプを活性化するのか、シグナル伝達の詳細は完全には明らかになっていません。本研究では、気孔開度制御の分子機構を明らかにするため、気孔開度に影響を与える化合物の網羅的なスクリーニング(約3万)を実施しました。その結果、アブラナ目植物がもつ天然物のイソチオシアネートであるベンジルイソチオシアネート (BITC) が細胞膜プロトンポンプの活性化を抑制することで気孔開口を抑制することが明らかとなりました。また、BITCの分子構造を改良することによって、抑制活性がBITCよりも最大66倍強いスーパーITCの開発にも成功しました。スーパーITCは、植物ホルモン・アブシジン酸をしのぐ気孔開口抑制活性を有し、かつ、効果がより長期間持続することが分かりました。さらに、これらの化合物をキクの切花や土植えのハクサイに散布したところ、乾燥による葉のしおれが抑制されることが明らかとなり、切花や生け花の鮮度保持剤や農作物の乾燥耐性付与剤としての利用が期待される結果が得られました。
*Kidokoro, S., Konoura, I., Soma, F., Suzuki, T., Miyakawa, T., Tanokura, M., *Shinozaki, K., and *Yamaguchi-Shinozaki, K.
Clock-regulated coactivators selectively control gene expression in response to different temperature stress conditions in Arabidopsis.
Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 120, e2216183120 (2023) Link
気温は自然界において絶え間なく変化しており、生物の成長や生存に多大な影響を与えます。植物は、常温時には明暗などの周期的な変化に応じて概日時計を介して成長を制御しています。一方で、低温ストレスや高温ストレスに晒されると、ストレスに応じた耐性遺伝子の発現を誘導します。本研究では、概日時計で働くことが知られていた転写コアクチベーターであるLNKファミリーが低温ストレスや高温ストレスの初期応答における遺伝子発現の誘導と耐性獲得にも機能することを明らかにしました。特に、シロイヌナズナが持つ4つのLNK(LNK1-LNK4)のうち、機能が未知であったLNK3とLNK4が低温ストレス時の遺伝子発現誘導において強く機能することを見出しました。またLNK1とLNK2は常温時と高温ストレス時の遺伝子発現誘導において機能していました。温度変化に応じたLNKタンパク質の使い分けにより、植物が成長と耐性獲得のシグナル経路を柔軟に切り替えることが可能になると考えられます。
Bessho-Uehara, K., Masuda, K., Wang, D., Angeles-Shim, R., Obara, K., Nagai, K., Murase, R., Aoki, S., Furuta, T., Miura, K., Wu, J., Yamagata, Y., Yasui, H., Kantar, M., Yoshimura, A., Kamura, T., McCouch, S., and *Ashikari M.
REGULATOR OF AWN ELONGATION 3, an E3 ubiquitin ligase, is responsible for loss of awns during African rice domestication.
Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 120, e2207105120 (2023) Linkプレスリリース
人類はおよそ1万年かけて、野生イネを改良して栽培に適したものにしてきました。イネはアジアとアフリカの2地域で独立に栽培化されましたが、その標的となった表現型は両者で共通するものが多く、芒(のぎ)の喪失もその1つでした。イネの芒は種子先端に形成される突起状の構造物で、野生イネでは自然状況下において種子の拡散や鳥獣からの食害防除に役立っていますが、栽培する上では作業を煩雑化する形質で、栽培化の過程で取り除かれました。本研究では、栽培化の過程でアフリカイネが芒を失う原因となった遺伝子変異を同定しました。これまでに研究チームは、アジアイネの芒喪失にRAE1とRAE2の2つの遺伝子の機能欠損が重要であったことを示してきましたが、アフリカイネの芒喪失については詳しくわかっていませんでした。本研究では、アフリカイネにおける芒喪失はE3ユビキチンリガーゼをコードするRAE3という遺伝子の機能欠損が原因であったことを示しました。これまでアジアイネとアフリカイネの栽培化関連形質は、同じ遺伝子の異なる変異が選抜されることにより達成されてきたと報告されていましたが、今回初めて、アジアイネとアフリカイネで共通の栽培化形質(芒の喪失)が異なる遺伝子変異の選抜によってもたらされたことを明らかにしました。
Ogawa-Ohnishi, M., Yamashita, T., Kakita, M., Nakayama, T., Ohkubo, Y., Hayashi, Y., Yamashita, Y., Nomura, T., Noda, S., Shinohara, H., and *Matsubayashi, Y.
Peptide ligand-mediated trade-off between plant growth and stress response.
Science, 378, 175-180 (2022) Linkプレスリリース
植物は、自然環境下における病害・温度・塩などの様々なストレスに適応するために、成長に使うエネルギーの一部を状況に応じてストレス応答に回すしくみを持っており、「成長とストレス応答のトレードオフ」と呼ばれます。本研究では、ペプチドホルモンPSYとその受容体PSYRが、細胞間シグナリングを介してストレス応答のONとOFFを切り替えていることを発見しました。非常に興味深いことに、受容体PSYRはリガンドであるPSYが結合していないときに活性化してストレス応答に関連する多数の転写因子群の発現を誘導し、逆にPSYの結合によって不活性化されます。普段は全身の細胞で発現しているPSYのはたらきにより、ストレス応答は抑制されていますが、この通常とは逆の活性化メカニズムによって、植物は巧みなストレス応答能力を発揮します。すなわち、組織の一部が環境ストレスによってダメージを受けて代謝不全になるとPSYが生産されなくなり、局所的にリガンド濃度が低下します。その結果、ダメージ部位の周辺部の細胞においてのみPSYRが活性化してストレス応答が誘導され、効率よくダメージの拡大を防ぐことができます。PSYとPSYRのはたらきによって、植物は不均一な環境ストレスに巧みに適応しています。
Ogawa, S., Cui, S., White, A. R. F., Nelson, D.C., Yoshida, Y., and *Shirasu, K.
Strigolactones are chemoattractants for host tropism in Orobanchaceae parasitic plants.
Nature Commun., 13, 4653 (2022) Linkプレスリリース
根寄生植物は、①宿主となる植物が近くにいることを認識し発芽する、②自身の根を宿主の根に向けて伸ばす、③根を連結させ栄養や水を奪う、という3段階を経て寄生を完了させます。このうち、①と③については研究が進められてきましたが、②の屈性と呼ばれる現象のメカニズムについてはほとんど明らかになっていませんでした。今回、国際共同研究グループは、ハマウツボ科寄生植物のコシオガマが宿主の根から放出される根圏情報物質のストリゴラクトン(SL)に対して屈性を示すことを発見しました。この屈性はアフリカなどで農業被害を引き起こしている同じハマウツボ科のストライガでも見られる一方で、非寄生植物では見られないことから、ハマウツボ科寄生植物に特有の戦略である可能性があります。また、SLへの屈性には植物ホルモンであるオーキシンの輸送が関与すること、屈性はアンモニウムイオンの存在下では抑制されることを発見し、さらにSLを認識して屈性を引き起こす受容体を同定しました。
*Oya, S., Takahashi, M., Takashima, K., *Kakutani, T., and *Inagaki, S.
Transcription-coupled and epigenome-encoded mechanisms direct H3K4 methylation.
Nature Commun., 13, 4521 (2022) Linkプレスリリース
ヒストン修飾の1つであるヒストンH3タンパク質の4番目のリジンのメチル化(H3K4メチル化)は、進化的保存性が高く、ゲノムの中でも特に発現レベルの高い遺伝子領域に分布してします。H3K4メチル化が遺伝子の発現を促進しているのか、あるいは遺伝子発現の結果導入されるものなのかといった点や、H3K4メチル化が特定のゲノム領域に導入される仕組みについては、いくつもの仮説が提案され、議論が続いていました。今回の研究では複数あるH3K4メチル化酵素それぞれのゲノム中の分布を実験的に決定し、局在パターンを機械学習によりモデル化する手法から、遺伝子の転写装置と共働するタイプのメチル化酵素と、特定のクロマチン修飾やDNA配列を標的にするタイプのメチル化酵素の2つが分業してH3K4メチル化を制御していることを見出しました。またこの2つの制御モードはシロイヌナズナとマウスという進化的に遠く離れた生物種間で保存されていることも見出しました。
*Sakamoto, T., Sakamoto, Y., Grob, S., Slane, D., Yamashita, T., Ito, N., Oko, Y., Sugiyama, T., Higaki, T., Hasezawa, S., Tanaka, M., Matsui, A., Seki, M., Suzuki, T., Grossniklaus, U., and *Matsunaga, S.
Two-step regulation of centromere distribution by condensin II and the nuclear envelope proteins.
Nature Plants, 8, 940-953 (2022) Linkプレスリリース
様々な環境に対応する遺伝子発現を正常に実行するためには、細胞核内のDNAが3次元的に適切な空間配置ポジションをとることが重要であることが示唆されています。シロイヌナズナの変異体を使用してセントロメアを分散配置させるタンパク質群(CII-LINC複合体およびCRWN)の同定に成功し、二つの分子経路が関与することを明らかにしました。1885年以来、130年以上、謎であったセントロメアの空間配置パターンの分子メカニズムが明らかになりました。また、正常なセントロメアの空間配置ができなくなると、DNA損傷ストレスを受けた時に器官成長が悪くなることがわかりました。これは、生物が環境ストレスに対応するためには、細胞核内の適切なDNAの空間配置が必要なことを示唆しています。
Matsumura, M., *Nomoto, M., Itaya, T., Aratani, Y., Iwamoto, M., Matsuura, T., Hayashi, Y., Mori, T., Skell, M.J., Yamamoto, Y.Y., Kinoshita, T., Mori, I.C., Suzuki, T., Betsuyaku, S., Spoel, S.H., Toyota, M., and *Tada, Y.
Mechanosensory trichome cells evoke a mechanical stimuli–induced immune response in Arabidopsis thaliana.
Nature Commun., 13, 1216 (2022) Linkプレスリリース
植物はヒトなどの多細胞生物と同様に免疫系を持っており、病原体を感知すると、免疫関連の遺伝子発現を介して感染を阻害します。一方で、植物に感染する病原体の多くは、雨によって媒介されます。雨滴の中には細菌、糸状菌やウイルスといった病原体が含まれており、それらが病害発生の直接的な原因になりうることも知られています。したがって、植物にとって雨は危険因子としての側面もありますが、植物が雨に対してどのように応答するかは未解明でした。本研究では、雨は葉の表面に存在する毛状の細胞(トライコーム)によって感知されると、トライコーム周辺の組織にカルシウムウェーブを誘導し、病原体に対する免疫を活性化し、その感染を防除することを明らかにしました。
Misawa, F., Ito, M., Nosaki, S., Nishida, H., Watanabe, M., Suzuki, T., Miura, K., Kawaguchi, M., and *Suzaki, T.
Nitrate transport via NRT2.1 mediates NIN-LIKE PROTEIN-dependent suppression of root nodulation in Lotus japonicus.
Plant Cell, 34, 1844-1862 (2022) Linkプレスリリース
窒素固定細菌との共生器官として機能する根粒の形成は、硝酸などの窒素栄養が土壌中に存在すると抑制されます。近年、この現象の制御に関わる因子が相次いで同定されていますが、窒素栄養と根粒共生を結びつける具体的な仕組みは未解明のままでした。今回の研究では、ミヤコグサの硝酸イオン輸送体LjNRT2.1が硝酸イオンの量に応じた根粒共生の抑制制御を仲介する機能を持つことを示しました。また、根粒形成の進行に伴ってLjNRT2.1の遺伝子発現の抑制により土壌からの硝酸イオンの取り込みが抑制される可能性が示唆されました。これらの発見によって、根粒共生を行うマメ科植物ならではの栄養獲得戦略の仕組みの一端が明らかになりました。
Hasegawa, Y., Reyes, T.H., Uemura, T., Baral, A., Fujimaki, A., Luo, Y., Morita, Y., Saeki, Y., Maekawa, S., Yasuda, S., Mukuta, K., Fukao, Y., Tanaka, K., Nakano, A., Takagi, J., Bhalerao, R.P., Yamaguchi, J., and *Sato, T.
The TGN/EE SNARE protein SYP61 and the ubiquitin ligase ATL31 cooperatively regulate plant responses to carbon/nitrogen conditions in Arabidopsis.
Plant Cell, 34, 1354-1374 (2022) Linkプレスリリース
我々ヒトと同様に,栄養バランスの乱れは様々なかたちで植物の成長に悪影響を及ぼします。特に,代謝の根幹を担う糖(炭素源,C)と窒素(N)のバランスは重要で,C/Nバランスの乱れは発芽阻害や葉の老化促進,バイオマスの低下に繋がることが知られています。しかし,こうしたC/Nバランス異常への適応メカニズムはあまりわかっていません。本研究では,細胞内の膜交通制御因子であるSNAREタンパク質SYP61が植物のC/Nストレス耐性付与に重要な役割を果たすことを明らかにしました。さらに,SYP61の機能がユビキチン化修飾によって制御される可能性が示され,環境ストレスに応じた膜交通制御機構について新たな知見が得られました。
Ishihama, N., Choi, S-W., Noutoshi, Y., Saska, I., Asai, S., Takizawa, K., He., S.Y., Osada, H., and *Shirasu, K.
Oxicam-type nonsteroidal anti-inflammatory drugs inhibit NPR1-mediated salicylic acid pathway.
Nature Commun., 12, 7303 (2021) Linkプレスリリース
植物は、病原菌の感染行動を認識すると、生体防御反応を誘導することで病原菌の感染および増殖を防ぎます。ヒトの非ステロイド性抗炎症薬として知られるサリチル酸は、ヤナギの樹皮から抽出した解熱鎮痛剤の実体として2000年以上前から使用されてきましたが、植物体内においては、サリチル酸は内生のシグナル分子であり、転写補助因子NPR1を介して植物免疫応答を活性化する働きを持っています。今回新たに化合物ライブラリーから植物の免疫応答を抑制する化合物として、化学構造の類似した3種類のオキシカム系非ステロイド性抗炎症薬を同定しました。さらに、その1つが細胞内の酸化還元状態を酸化側に傾かせること、そしてサリチル酸で発現が上昇する遺伝子群を広範に抑制することを示し、サリチル酸のシグナル伝達機構の一端を明らかにしました。
Nomoto, M., Skelly, M.J., Itaya, T., Mori, T., Suzuki, T., Matsushita, T., Tokizawa, M., Kuwata, K., Mori, H., Yamamoto, Y.Y., Higashiyama, T., Tsukagoshi, H., *Spoel, S.H., and *Tada, Y.
Suppression of MYC transcription activators by the immune cofactor NPR1 fine tunes plant immune responses.
Cell Rep., 37, 110125 (2021) Linkプレスリリース
植物は、ヒトなどの動物と同様に高度な免疫系を保有しており、植物が病原体を感知すると、免疫系を活性化することでその感染を防除します。一方、植物は虫害防御システムも備えており、昆虫が葉を摂食すると、植物は忌避物質などを生成することで虫害を防ぎます。この植物免疫系と虫害防御システムは拮抗的な関係にあり、免疫系を活性化している植物は、虫害被害を受けやすくなることが知られていますが、その仕組みは長年謎のままでした。本研究では、免疫系の活性化因子であるNPR1が、虫害防御システムの鍵転写因子であるMYCと結合することで、虫害抵抗性遺伝子の発現を抑制することを明らかにしました。つまり、NPR1は免疫系の活性化因子であると同時に、虫害防御システムの抑制因子として機能することが分かりました。
Sanagi, M., Aoyama, S., Kubo, A., Lu, Y., Sato, Y., Ito, S., Abe, M., Mitsuda, N., Ohme-Takagi, M., Kiba, T., Nakagami, H., Rolland, F., Yamaguchi, J., *Imaizumi, T., and *Sato, T.
Low nitrogen conditions accelerate flowering by modulating the phosphorylation state of FLOWERING BHLH 4 in Arabidopsis.
Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 118, e2022942118 (2021) Linkプレスリリース
土壌中の窒素量が開花時期に影響を及ぼすという観察は農作物でも見受けられますがそのメカニズムは殆ど分かっていませんでした。本研究では、窒素量に応じてリン酸化の程度が顕著に異なる転写因子が開花制御に重要な因子であるFBH4であることを発見しました。さらに培養条件中の窒素量によりFBH4タンパク質のリン酸化修飾変化が起こり、タンパク質の細胞内局在を変化させることによって転写因子の活性を制御していることが示唆されました。その上FBH4タンパク質はSnRK1リン酸化酵素によりリン酸化される事、また窒素量に応じてSnRK1の活性が変わる事を見出しました。これらのメカニズムを介して窒素量の変化が開花時期を調節する事を明らかにしました。
Sakamoto, Y., Zaha, S., Nagasawa, S., Miyake, S., Kojima, Y., Suzuki, A., *Suzuki, Y., and *Seki, M.
Long-read whole-genome methylation patterning using enzymatic base conversion and nanopore sequencing.
Nucleic Acids Res., 49, e81 (2021) Linkプレスリリース
DNAメチル化は、遺伝子発現量の調節などに中心的な役割を果たしていて、細胞の分化や病気などに重要な役割を担っています。これまでのDNAメチル化解析手法は、短いDNAを解析する方法が主で、1本の長いDNAがどのようにメチル化されているのかは十分にわかっていませんでした。近年、ナノポアシークエンサーといった長いDNAを読み取ることのできるシークエンサーが登場し、長いDNAのメチル化の解析が可能となりましたが、多量のDNAを必要とするため実施できるサンプルが限られていました。今回、酵素を利用した塩基変換法とナノポアシークエンスを組み合わせて、通常のナノポアシークエンスの1/100程度のDNA量から実施できる全ゲノムDNAメチル化解析手法nanoEMを開発しました。さらに、nanoEMを微量の臨床サンプルにも適用できることを示しました。
#Nishida, H., #Nosaki, S., Suzuki, T., Ito, M., Miyakawa, T., Nomoto, M., Tada, Y., Miura, K., Tanokura, M., Kawaguchi, M., and *Suzaki, T.
Different DNA-binding specificities of NLP and NIN transcription factors underlie nitrate-induced control of root nodulation.
Plant Cell, 33, 2340-2359 (2021) Linkプレスリリース
高濃度の窒素栄養が含まれる土壌では根粒形成が抑制されます。NLP転写因子がその制御に関わることが知られていましたが、根粒形成を促進または抑制する遺伝子が高窒素栄養環境では具体的にどのような仕組みによって発現調節を受けるのかはよく分かっていませんでした。今回の研究では、硝酸栄養存在下でNLPと根粒を作る働きを持つNIN転写因子が相互作用をすることで、NINの標的遺伝子の発現が抑制されることを示しました。また、NLPとNINのDNA結合特異性の違いがその制御の背景にあることも分かりました。これらの発見により、NLPをハブとした硝酸栄養に応じた遺伝子発現と根粒形成抑制の基本制御メカニズムが明らかになりました。
Ohkubo, Y., Kuwata, K., and *Matsubayashi, Y.
A type 2C protein phosphatase activates high-affinity nitrate uptake by dephosphorylating NRT2.1.
Nature Plants, 7, 310-316 (2021) Linkプレスリリース
窒素は植物の成長に最も重要な栄養素のひとつであり、土壌中に存在する硝酸を主要な窒素源として根から吸収しています。この硝酸吸収の過程で主要な役割を担うのが、根の表面に存在する硝酸イオン輸送体NRT2.1です。NRT2.1の活性はリン酸化修飾によってオフとなることが知られていましたが、この過程の可逆性や制御に関わる酵素についてはよく分かっていませんでした。今回の研究では、NRT2.1を脱リン酸化して硝酸吸収活性をオンにする脱リン酸化酵素CEPHを発見し、この過程が可逆的であるとともに、窒素欠乏に応答した硝酸吸収制御の重要なスイッチング機構であることを示しました。植物は窒素が十分あるうちにNRT2.1を多めに合成して不活性型でストックしておき、窒素不足になった時にCEPHを使って活性化することで、変動する窒素栄養環境に巧みに適応していることが明らかになりました。
*Inagaki, S., Takahashi, M., Takashima, K., Oya, S., and Kakutani, T.
Chromatin-based mechanisms to coordinate convergent overlapping transcription.
Nature Plants, 7, 295-302 (2021) Link, プレスリリース
生物のゲノム上ではタンパク質をコードする遺伝子のみならず、非コード転写も頻繁に起きており、ゲノム上では入り組んだ転写が起きていることが分かってきていますが、この入り組んだ転写を調節する仕組みはほとんど理解されていません。今回の研究では、ゲノムが小さく、遺伝子が密に並んでいるシロイヌナズナにおいて、数百もの遺伝子領域において逆向きにオーバーラップする転写(アンチセンス転写)が起きていること、またこのアンチセンス転写が起きている領域の転写を調節する新たなエピゲノム制御機構を見出しました。またこの制御は、植物が冬の低温を記憶し春に開花する仕組みに関与しています。これらの結果は、ゲノム上での近隣遺伝子との関係性がエピゲノムを介して遺伝子発現や環境への適応に果たす役割を示唆しています。
Zhang, M., Wang, Y., Chen, X., Xu, F., Ding, M., Ye, W., Kawai, Y., Toda, Y., Hayashi, Y., Suzuki, T., Zeng, H., Xiao, L., Xiao, X., Xu, J., Guo, S., Yan, F., Shen, Q., Xu, G., *Kinoshita, T., and *Zhu, Y.
Plasma membrane H+-ATPase overexpression increases rice yield via simultaneous enhancement of nutrient uptake and photosynthesis.
Nature Commun., 12, 735 (2021) Link, プレスリリース
植物は、根から窒素などの養分を吸収すると同時に、葉の気孔を開き、CO2を取り込んで光合成を行い、成長しています。本研究では、イネの養分吸収と気孔開口について解析を行い、細胞膜プロトンポンプと呼ばれる酵素が共通して重要な役割を果たすことが明らかとなりました。そこで、プロトンポンプ過剰発現イネの詳細な解析を行ったところ、野生株と比べ、根での養分吸収、気孔開口、光合成活性が20%以上増加し、隔離水田での栽培試験において収量が30%以上増加することが明らかとなりました。さらに過剰発現イネでは窒素の施肥量を半分に減らしても、通常より収量が多いことを見出しました。本研究の成果は、今後、食糧増産や環境問題に大きく関わるCO2や肥料の削減に貢献することが期待されます。
Sakamoto, Y., Sato, M., Sato, Y., Harada, A., Suzuki, T., Goto, C., Tamura, K., Toyooka, K., Kimura, H., Ohkawa, Y., Hara-Nishimura, I., Takagi, S., and *Matsunaga, S.
Subnuclear gene positioning through lamina association affects copper tolerance.
Nature Commun., 11, 5914 (2020) Link, プレスリリース
遺伝子は3次元的にDNAがパッケージングされた細胞核内で、空間に配置されています。そのため、遺伝子が細胞核内の3次元的配置を変化させて、遺伝子発現のON/OFFを調節することが知られていましたが、その詳細なメカニズムは不明なままでした。細胞核内の遺伝子の3次元的配置を制御するタンパク質として、核膜裏打ちタンパク質CRWNを同定しました。また、蛍光イメージング、クロマチン挿入標識(CHIL)、蛍光in situ hybridization (FISH)を用いることで、外部環境の変化に応じて遺伝子の空間配置が変化することが明らかになりました。銅環境の変化に合わせて銅関連遺伝子の空間配置が変化し、銅関連遺伝子がCRWNに結合することで遺伝子の発現がONになることがわかりました。