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注目の論文

注目の論文

28. 光によってプロトンポンプが活性化し気孔が開くしくみを解明(武宮班)

Fuji, S., Yamauchi, S., Sugiyama, N., Kohchi, T., Nishihama, R., Shimazaki, K., and *Takemiya, A.

Light-induced stomatal opening requires phosphorylation of the C-terminal autoinhibitory domain of plasma membrane H+-ATPase.

Nature Commun., 15, 1195 (2024) Linkプレスリリース

気孔は陸上植物の表皮にある孔であり、光に応答して開口し、光合成に必要な二酸化炭素の吸収を促進します。細胞膜H+-ATPaseは細胞内のH+を細胞外へ汲み出す酵素であり、気孔開口の駆動力を形成します。しかし、H+-ATPaseが光によって活性化するしくみについては、これまで解明されていませんでした。本研究では、気孔を構成する孔辺細胞において、H+-ATPaseの自己阻害領域に存在する2カ所のThr残基(Thr-881, Thr-948)が青色光に応答して特異的にリン酸化されることを発見し、これらのリン酸化がH+-ATPaseの活性化と気孔開口に必須であることを突き止めました。さらにThr-881は孔辺細胞の光合成によってもリン酸化され、気孔開口を促進することを示しました。このしくみを応用することで、H+-ATPaseのはたらきや気孔の開閉を人為的に制御することが可能となり、CO2吸収力や成長を向上させた植物を開発できる可能性があります。なお、本論文は木下班の論文とback-to-backでNature Communications 誌の同一号に掲載されました。

27. 気孔開口に必須の細胞膜プロトンポンプの新規活性調節機構を解明(木下班)

Hayashi, Y., Fukatsu, K., Takahashi, K., Kinoshita, S.N., Kato, K., Sakakibara, T., Kuwata, K., and *Kinoshita, T.

Phosphorylation of plasma membrane H+-ATPase Thr881 participates in light-induced stomatal opening.

Nature Commun., 15, 1194 (2024) Linkプレスリリース

本研究では、光による気孔開口の分子機構を解明することを目的とし、ソラマメ孔辺細胞プロトプラストを用いた網羅的なホスホプロテオミクスと、シロイヌナズナを用いた遺伝子組換え実験を行いました。その結果、気孔開口において必須の役割を担う細胞膜プロトンポンプの、すでに知られているC末端から2番目のスレオニン残基(Thr948)の青色光によるリン酸化に加え、881番目のスレオニン残基(Thr881)の孔辺細胞葉緑体に作用する赤色光と青色光受容体フォトトロピンに作用する青色光によるリン酸化が、気孔開口に必要であることが明らかとなりました。また、Thr881のリン酸化は、孔辺細胞のみならず、葉や芽生えにおいても観察されること、さらに、リン酸化Thr881の脱リン酸化には、タイプ2CプロテインホスファターゼDが関与することも明らかとなりました。気孔は、シグナルとして作用する青色光のみでは開口せず、孔辺細胞の光合成を誘導する赤色光が必要であることが知られていましたが、本研究により、気孔開口における赤色光と青色光の効果を繋ぐ分子機構の一端が明らかになり、植物のマスターエンザイム・細胞膜プロトンポンプの精緻な活性調節機構が明らかとなりました。なお、本論文は武宮班の論文とback-to-backでNature Communications 誌の同一号に掲載されました。


26. ストレス応答を制御するジャスモン酸の働きで花びらが散る仕組みを解明(山口班)

Furuta, Y., Yamamoto, H., Hirakawa, T., Uemura, A., Pelayo, M.A., Iimura, H., Katagiri, N., Takeda-Kamiya, N., Kumaishi, K., Shirakawa, M., Ishiguro, S., Ichihashi, Y., Suzuki, T., Goh, T., Toyooka, K., *Ito, T., and *Yamaguchi, N.

Petal abscission is promoted by jasmonic acid-induced autophagy at Arabidopsis petal bases.

Nature Commun., 15, 1098 (2024) Linkプレスリリース

ジャスモン酸は病害虫、傷害などの環境ストレス応答におけるシグナル伝達物質として機能するだけでなく、花びらが脱離するという植物の成長や老化を制御する上でも重要な植物ホルモンである。ジャスモン酸の合成ができない突然変異体では花びらの脱離が遅れることは知られていましたが、その仕組みは不明でした。本研究では、この突然変異体を用いたトランスクリプトーム解析を行い、鍵となる転写因子をコードするNAC DOMAIN CONTAINING PROTRIN102 (NAC102)を同定しました。このNAC102遺伝子は花びらの根元で限定的に発現します。さらに、NAC転写因子の直接標的を網羅的に同定し、オートファジーを制御するAUTOPHAGY (ATG)遺伝子群があることを見出しました。このATG遺伝子の働きにより、オートファジーが花びらの根元で限定的に促進されて、花びらの脱離が起こることがわかりました。これらの知見によって、花びらが散る仕組みの一端が明らかになりました。


25. 植物免疫受容体の進化の軌跡を解明 -発生・成長を担う受容体と共通の祖先から派生-(吉田班・白須)

Ngou, B.P.M., Wyler, M., Schmid, M.W., *Kadota, Y., and *Shirasu, K.

Evolutionary trajectory of pattern recognition receptors in plants.

Nature Commun., 15, 308 (2024) Linkプレスリリース

植物が陸上に進出し、多様な微生物と遭遇する中で、どのようにして病原微生物を認識する能力を獲得したのか、植物免疫の起源に関しては未解明でした。本研究では、公開されている350種の植物ゲノム情報から、細胞膜に局在する受容体をコードする遺伝子を約21万個抽出して比較解析を行いました。そして、病原体の侵入を認識する免疫受容体群(ロイシンリッチリピート(LRR)受容体型リン酸化酵素(LRR-RLKs)、およびロイシンリッチリピート受容体様タンパク質(LRR-RLPs))の進化の軌跡を調べました。その結果、LRR-RLPs型の免疫受容体群は発生・成長の制御を担う受容体群と共通の祖先から派生し、進化の過程でそれぞれの機能に必要なモジュールを獲得することで異なる受容体へと進化したことが分かりました。これにより、植物免疫を理解する上で重要な疑問の一つであった植物免疫の起源について、本研究は分子レベルでの解答を与えることができました。さらに免疫型LRR-RLPsと発生・成長型LRR-RLK-Xbsの進化と、それぞれが進化させた機能的モジュールが明らかになりました。本研究によって、植物のゲノム情報から、免疫受容体として働く遺伝子と発生・成長に関わる遺伝子を簡便かつ正確に予測することができるようになりました。


24. 体内の窒素状態に応じて植物が根粒菌に鉄を供給する仕組みを解明(壽崎班)

Ito, M., Tajima, Y., Ogawa-Ohnishi, M., Nishida, H., Nosaki, S., Noda, M., Sotta, N., Kawade, K., Kamiya, T., Fujiwara, T., Matsubayashi, Y., and *Suzaki, T.

IMA peptides regulate root nodulation and nitrogen homeostasis by providing iron according to internal nitrogen status.

Nature Commun., 15, 733 (2024) Linkプレスリリース


マメ科植物の根に形成される根粒の中で、根粒菌は空中窒素をアンモニアに変換する窒素固定を行います。窒素固定反応を触媒する酵素として知られるニトロゲナーゼが働くためには鉄が必要です。しかしながら、どこから、どのように鉄が根粒へと運ばれて窒素固定のために使われるのか、その仕組みは不明でした。本研究では、ミヤコグサの根粒形成過程における体内の窒素状態に応じたトランスクリプトーム解析を行い、IRON MAN (IMA)ペプチドを同定しました。IMAペプチドをコードする遺伝子は根粒菌の感染によって全身的(地上部と根)に発現し、根粒に鉄を集める働きを持つことが分かりました。さらに、シロイヌナズナにおけるIMAペプチドの機能解析によって、ミヤコグサとシロイヌナズナのいずれにも、IMAペプチドが植物体内の窒素量の増加に応じて鉄を得ることで窒素恒常性を維持し、植物の成長を制御する仕組みが存在することを発見しました。これらの知見によって、窒素と鉄のバランス調節を介した植物の環境適応および成長制御の仕組みの一端が明らかになりました。


23. メッセンジャーRNAの5’末端を高い特異性で検出するTSS-seq2法を開発(松下班・関)

*Seki, M., Kuze, Y., Zhang, X., Kurotani, K.-i., Notaguchi, M., Nishio, H., Kudoh, H., Suzaki, T., Yoshida, S., Sugano, S., Matsushita, T., and *Suzuki, Y.

An improved method for the highly specific detection of transcription start sites.

Nucleic Acids Res., 52, e7 (2024) Linkプレスリリース

ゲノムから遺伝子が読み取られるDNA上での位置である転写開始点(TSS)を網羅的に決定するTSS-seq2法を開発しました。さらに、領域内の吉田班、野田口班、壽崎班、西尾班との共同研究により、コシオガマ、ベンサミアナタバコ、ミヤコグサ、ハクサンハタザオの4種類の植物について、TSS情報の収集を行いました。TSSの決定は、RNAの正確な構造や、TSSの近辺に存在して遺伝子の機能を調節する領域であるプロモーターを同定するために重要です。正確性の高いTSS検出法は、必要なRNAの量が多く、プロトコルが複雑であるなど、簡単には実施できない手法が主でした。今回、開発したTSS-seq2は、比較的簡単なプロトコルで、他の既存の方法よりも特異的にTSSを検出でき、5ナノグラムと少量のRNAからでも実施できます。TSS-seq2により、様々な生物種や組織でのmRNAの正確な構造の同定や遺伝子の制御の研究、特に、希少な細胞種や微小な組織などの少量のサンプルの解析への応用が期待されます。また、今回収集した植物のTSS情報は、これらの植物種の研究の基盤データとなることが期待されます。


22. 遺伝子の転写をヒストンの脱メチル化で記録する分子機構の解明(佐瀬班・稲垣)

*Mori, S., Oya, S., Takahashi, M., Takashima, K., *Inagaki, S., and *Kakutani, T.

Cotranscriptional demethylation induces global loss of H3K4me2 from active genes in Arabidopsis.

EMBO J., e113798 (2023) Linkプレスリリース

変動する自然環境の中で植物が効率的に遺伝子発現を変動させて環境に適応するためには、過去の遺伝子発現状態の情報を活かし、次に来る同様の環境変動に迅速に応答する必要があると考えられます。しかし、遺伝子の転写活性をどのように記録するのか、その分子メカニズムは不明でした。本研究では一般的に転写活性型マークと考えられてきたヒストンH3の4番目のリジンのジメチル化(H3K4me2)は植物においては転写抑制的に働くこと、また、H3K4me2を除く脱メチル化酵素であるLDL3タンパク質が転写中のRNAポリメラーゼに結合して働き、転写が活発に起きている遺伝子領域からH3K4me2を除くことを明らかにしました。その結果出来上がる低H3K4me2レベル状態は遺伝子発現に促進的に働くと考えられます。LDL3タンパク質のRNAポリメラーゼとの結合能力は陸上植物の進化の過程で獲得されたと考えられることから、動けない植物が変動環境に迅速に対応する巧みな仕組みであると考えられます。


21. 遺伝子と転移因子配列の融合mRNAのエピジェネティック制御と環境ストレス応答(佐瀬班)

*Berthelier, J., Furci, L., Asai, S., Sadykova, M., Shimazaki, T., Shirasu, K., and *Saze, H.

Long-read direct RNA sequencing reveals epigenetic regulation of chimeric gene-transposon transcripts in Arabidopsis thaliana.

Nature Commun., 14, 3248 (2023) Linkプレスリリース

ゲノム中には転移因子(トランスポゾン)と呼ばれるDNA配列が多数存在しています。トランスポゾンはゲノム中を移動して遺伝子を破壊したり、自身のコピーを増幅させる性質があるため、植物はトランスポゾンの活性を抑制するDNAメチル化やヒストン修飾などのエピジェネティックな機構を進化させてきました。トランスポゾンは遺伝子の近傍や内部にも存在していますが、どのように遺伝子の発現と機能に影響するかは多くが未解明のままです。本研究では、RNAダイレクトシークエンシングという直接RNA分子を検出する技術を用いてシロイヌナズナを解析し、通常の遺伝子とトランスポゾン配列が融合したmRNAを転写する数千の遺伝子座を新たに同定しました。また、DNAメチル化やヒストン修飾の変化、環境ストレスが遺伝子-トランスポゾン転写産物の制御に影響を与えることも明らかになりました。さらに、領域内の吉田班白須グループとの共同研究により遺伝子-トランスポゾン転写産物の発現パターンが変化した変異体では病原体感染に対してより抵抗性が上昇していることも見出しました。高温や病原菌などのに応じてトランスポゾンの発現量が変化していることが分かりました。今回の研究からトランスポゾン配列による遺伝子転写制御と環境適応のメカニズムの一端が明らかになりました。


20. 植物ビリルビンの発見:変動する光環境下で酸化ストレスを低減する(木下班・児玉)

Ishikawa, K., Xie, X., Osaki, Y., Miyawaki, A., Numata, K., and *Kodama, Y.

Bilirubin is produced nonenzymatically in plants to maintain chloroplast redox status.

Sci. Adv., 9, eadh4787 (2023) Linkプレスリリース

ビリルビンはヒトなどの動物の血液に含まれるヘムの代謝産物として知られ、黄疸の原因物質として有名な色素です。人体においてはヘムの多くが赤血球中のグロビンというタンパク質に結合した「ヘモグロビン」として存在し、酸素を全身に輸送する機能を果たしています。一方で、血液が分解される際には、グロビンタンパク質から外れたヘム(遊離ヘム)が発生しますが、これが強い毒性を有することが知られています。そこで動物は、酵素を使って遊離ヘムを分解するシステムを有しています。動物では、遊離ヘムはビリベルジンという物質になった後、最終的にビリルビンに代謝されます。植物は血液を持ちませんが、動物と同様にヘムを有し、ヘムは酵素と結合することで、光合成や呼吸などで重要な役割を果たしています。しかし植物における遊離ヘムは、葉緑体内の酵素によってビリベルジンに変換されるものの、動物とは異なり、ビリルビンには代謝されないと考えられてきました。本研究では、ビリルビンに結合した際に蛍光を発するニホンウナギ由来UnaGタンパク質を用いて、様々な植物種でビリルビンが作られることを発見しました。また植物ビリルビンは、光合成の際に大量に発生するNADPHという物質と反応して非酵素的に作られ、酸化ストレスの低減に働いていました。この非酵素反応を介したメカニズムは、植物が変動する光環境に迅速に対応するために発達させたものと考えられます。


19. 植物の気孔開口を抑え、乾燥耐性を付与する天然物を新たに発見(木下班)

Aihara, Y., Maeda, B., Goto, K., Takahashi, K., Nomoto, M., Toh S., Ye, W., Toda, Y., Uchida, M., Asai, E., Tada, Y., Itami, K., Sato, A., *Murakami, K., and *Kinoshita, T.

Identification and improvement of isothiocyanate-based inhibitors on stomatal opening to act as drought tolerance–conferring agrochemicals.

Nature Commun., 14, 2665 (2023) Linkプレスリリース

植物の表皮には気孔が数多く存在し、植物はこの孔を通して光合成に必要な二酸化炭素を取り込み、蒸散や酸素の放出など、大気とのガス交換を行っています。気孔は一対の孔辺細胞により構成され、太陽光に含まれる青色光などに応答して開口します。孔辺細胞に青色光が照射されると、青色光受容体フォトトロピンが活性化し、細胞内シグナル伝達を経て細胞膜プロトンポンプを活性化し、気孔開口の駆動力が形成されますが、青色光がどのようにプロトンポンプを活性化するのか、シグナル伝達の詳細は完全には明らかになっていません。本研究では、気孔開度制御の分子機構を明らかにするため、気孔開度に影響を与える化合物の網羅的なスクリーニング(約3万)を実施しました。その結果、アブラナ目植物がもつ天然物のイソチオシアネートであるベンジルイソチオシアネート (BITC) が細胞膜プロトンポンプの活性化を抑制することで気孔開口を抑制することが明らかとなりました。また、BITCの分子構造を改良することによって、抑制活性がBITCよりも最大66倍強いスーパーITCの開発にも成功しました。スーパーITCは、植物ホルモン・アブシジン酸をしのぐ気孔開口抑制活性を有し、かつ、効果がより長期間持続することが分かりました。さらに、これらの化合物をキクの切花や土植えのハクサイに散布したところ、乾燥による葉のしおれが抑制されることが明らかとなり、切花や生け花の鮮度保持剤や農作物の乾燥耐性付与剤としての利用が期待される結果が得られました。


18. 植物の概日時計で働くコアクチベーターが低温・高温耐性獲得にも機能することを発見(城所班)

*Kidokoro, S., Konoura, I., Soma, F., Suzuki, T., Miyakawa, T., Tanokura, M., *Shinozaki, K., and *Yamaguchi-Shinozaki, K.

Clock-regulated coactivators selectively control gene expression in response to different temperature stress conditions in Arabidopsis.

Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 120, e2216183120 (2023) Link

気温は自然界において絶え間なく変化しており、生物の成長や生存に多大な影響を与えます。植物は、常温時には明暗などの周期的な変化に応じて概日時計を介して成長を制御しています。一方で、低温ストレスや高温ストレスに晒されると、ストレスに応じた耐性遺伝子の発現を誘導します。本研究では、概日時計で働くことが知られていた転写コアクチベーターであるLNKファミリーが低温ストレスや高温ストレスの初期応答における遺伝子発現の誘導と耐性獲得にも機能することを明らかにしました。特に、シロイヌナズナが持つ4つのLNK(LNK1-LNK4)のうち、機能が未知であったLNK3とLNK4が低温ストレス時の遺伝子発現誘導において強く機能することを見出しました。またLNK1とLNK2は常温時と高温ストレス時の遺伝子発現誘導において機能していました。温度変化に応じたLNKタンパク質の使い分けにより、植物が成長と耐性獲得のシグナル経路を柔軟に切り替えることが可能になると考えられます。


17. アフリカの栽培イネが芒(のぎ)を失った理由を解明(芦苅班)

Bessho-Uehara, K., Masuda, K., Wang, D., Angeles-Shim, R., Obara, K., Nagai, K., Murase, R., Aoki, S., Furuta, T., Miura, K., Wu, J., Yamagata, Y., Yasui, H., Kantar, M., Yoshimura, A., Kamura, T., McCouch, S., and *Ashikari M.

REGULATOR OF AWN ELONGATION 3, an E3 ubiquitin ligase, is responsible for loss of awns during African rice domestication.

Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 120, e2207105120 (2023) Linkプレスリリース

人類はおよそ1万年かけて、野生イネを改良して栽培に適したものにしてきました。イネはアジアとアフリカの2地域で独立に栽培化されましたが、その標的となった表現型は両者で共通するものが多く、芒(のぎ)の喪失もその1つでした。イネの芒は種子先端に形成される突起状の構造物で、野生イネでは自然状況下において種子の拡散や鳥獣からの食害防除に役立っていますが、栽培する上では作業を煩雑化する形質で、栽培化の過程で取り除かれました。本研究では、栽培化の過程でアフリカイネが芒を失う原因となった遺伝子変異を同定しました。これまでに研究チームは、アジアイネの芒喪失にRAE1とRAE2の2つの遺伝子の機能欠損が重要であったことを示してきましたが、アフリカイネの芒喪失については詳しくわかっていませんでした。本研究では、アフリカイネにおける芒喪失はE3ユビキチンリガーゼをコードするRAE3という遺伝子の機能欠損が原因であったことを示しました。これまでアジアイネとアフリカイネの栽培化関連形質は、同じ遺伝子の異なる変異が選抜されることにより達成されてきたと報告されていましたが、今回初めて、アジアイネとアフリカイネで共通の栽培化形質(芒の喪失)が異なる遺伝子変異の選抜によってもたらされたことを明らかにしました。


16. 植物のストレス応答と成長のトレードオフを制御するペプチドホルモンの発見(松林班)

Ogawa-Ohnishi, M., Yamashita, T., Kakita, M., Nakayama, T., Ohkubo, Y., Hayashi, Y., Yamashita, Y., Nomura, T., Noda, S., Shinohara, H., and *Matsubayashi, Y.

Peptide ligand-mediated trade-off between plant growth and stress response.

Science, 378, 175-180 (2022) Linkプレスリリース

植物は、自然環境下における病害・温度・塩などの様々なストレスに適応するために、成長に使うエネルギーの一部を状況に応じてストレス応答に回すしくみを持っており、「成長とストレス応答のトレードオフ」と呼ばれます。本研究では、ペプチドホルモンPSYとその受容体PSYRが、細胞間シグナリングを介してストレス応答のONとOFFを切り替えていることを発見しました。非常に興味深いことに、受容体PSYRはリガンドであるPSYが結合していないときに活性化してストレス応答に関連する多数の転写因子群の発現を誘導し、逆にPSYの結合によって不活性化されます。普段は全身の細胞で発現しているPSYのはたらきにより、ストレス応答は抑制されていますが、この通常とは逆の活性化メカニズムによって、植物は巧みなストレス応答能力を発揮します。すなわち、組織の一部が環境ストレスによってダメージを受けて代謝不全になるとPSYが生産されなくなり、局所的にリガンド濃度が低下します。その結果、ダメージ部位の周辺部の細胞においてのみPSYRが活性化してストレス応答が誘導され、効率よくダメージの拡大を防ぐことができます。PSYとPSYRのはたらきによって、植物は不均一な環境ストレスに巧みに適応しています。


15. 寄生植物が宿主に接近するメカニズムの解明(吉田班・白須)

Ogawa, S., Cui, S., White, A. R. F., Nelson, D.C., Yoshida, Y., and *Shirasu, K.

Strigolactones are chemoattractants for host tropism in Orobanchaceae parasitic plants.

Nature Commun., 13, 4653 (2022) Linkプレスリリース

根寄生植物は、①宿主となる植物が近くにいることを認識し発芽する、②自身の根を宿主の根に向けて伸ばす、③根を連結させ栄養や水を奪う、という3段階を経て寄生を完了させます。このうち、①と③については研究が進められてきましたが、②の屈性と呼ばれる現象のメカニズムについてはほとんど明らかになっていませんでした。今回、国際共同研究グループは、ハマウツボ科寄生植物のコシオガマが宿主の根から放出される根圏情報物質のストリゴラクトン(SL)に対して屈性を示すことを発見しました。この屈性はアフリカなどで農業被害を引き起こしている同じハマウツボ科のストライガでも見られる一方で、非寄生植物では見られないことから、ハマウツボ科寄生植物に特有の戦略である可能性があります。また、SLへの屈性には植物ホルモンであるオーキシンの輸送が関与すること、屈性はアンモニウムイオンの存在下では抑制されることを発見し、さらにSLを認識して屈性を引き起こす受容体を同定しました。


14. ヒストン修飾の分布を決める2つの機構を発見(佐瀬班・稲垣)

*Oya, S., Takahashi, M., Takashima, K., *Kakutani, T., and *Inagaki, S.

Transcription-coupled and epigenome-encoded mechanisms direct H3K4 methylation.

Nature Commun., 13, 4521 (2022) Linkプレスリリース

ヒストン修飾の1つであるヒストンH3タンパク質の4番目のリジンのメチル化(H3K4メチル化)は、進化的保存性が高く、ゲノムの中でも特に発現レベルの高い遺伝子領域に分布してします。H3K4メチル化が遺伝子の発現を促進しているのか、あるいは遺伝子発現の結果導入されるものなのかといった点や、H3K4メチル化が特定のゲノム領域に導入される仕組みについては、いくつもの仮説が提案され、議論が続いていました。今回の研究では複数あるH3K4メチル化酵素それぞれのゲノム中の分布を実験的に決定し、局在パターンを機械学習によりモデル化する手法から、遺伝子の転写装置と共働するタイプのメチル化酵素と、特定のクロマチン修飾やDNA配列を標的にするタイプのメチル化酵素の2つが分業してH3K4メチル化を制御していることを見出しました。またこの2つの制御モードはシロイヌナズナとマウスという進化的に遠く離れた生物種間で保存されていることも見出しました。


13. 細胞核におけるDNA空間配置を決めるメカニズムを解明(杉本班・松永)

*Sakamoto, T., Sakamoto, Y., Grob, S., Slane, D., Yamashita, T., Ito, N., Oko, Y., Sugiyama, T., Higaki, T., Hasezawa, S., Tanaka, M., Matsui, A., Seki, M., Suzuki, T., Grossniklaus, U., and *Matsunaga, S.

Two-step regulation of centromere distribution by condensin II and the nuclear envelope proteins.

Nature Plants, 8, 940-953 (2022) Linkプレスリリース

様々な環境に対応する遺伝子発現を正常に実行するためには、細胞核内のDNAが3次元的に適切な空間配置ポジションをとることが重要であることが示唆されています。シロイヌナズナの変異体を使用してセントロメアを分散配置させるタンパク質群(CII-LINC複合体およびCRWN)の同定に成功し、二つの分子経路が関与することを明らかにしました。1885年以来、130年以上、謎であったセントロメアの空間配置パターンの分子メカニズムが明らかになりました。また、正常なセントロメアの空間配置ができなくなると、DNA損傷ストレスを受けた時に器官成長が悪くなることがわかりました。これは、生物が環境ストレスに対応するためには、細胞核内の適切なDNAの空間配置が必要なことを示唆しています。


12. 植物は雨に打たれると免疫を活性化する仕組みを解明(松下班・多田)

Matsumura, M., *Nomoto, M., Itaya, T., Aratani, Y., Iwamoto, M., Matsuura, T., Hayashi, Y., Mori, T., Skell, M.J., Yamamoto, Y.Y., Kinoshita, T., Mori, I.C., Suzuki, T., Betsuyaku, S., Spoel, S.H., Toyota, M., and *Tada, Y.

Mechanosensory trichome cells evoke a mechanical stimuli–induced immune response in Arabidopsis thaliana.

Nature Commun., 13, 1216 (2022) Linkプレスリリース

植物はヒトなどの多細胞生物と同様に免疫系を持っており、病原体を感知すると、免疫関連の遺伝子発現を介して感染を阻害します。一方で、植物に感染する病原体の多くは、雨によって媒介されます。雨滴の中には細菌、糸状菌やウイルスといった病原体が含まれており、それらが病害発生の直接的な原因になりうることも知られています。したがって、植物にとって雨は危険因子としての側面もありますが、植物が雨に対してどのように応答するかは未解明でした。本研究では、雨は葉の表面に存在する毛状の細胞(トライコーム)によって感知されると、トライコーム周辺の組織にカルシウムウェーブを誘導し、病原体に対する免疫を活性化し、その感染を防除することを明らかにしました。


11. 根粒共生における硝酸イオン輸送体の機能と制御の仕組みを解明(壽崎班)

Misawa, F., Ito, M., Nosaki, S., Nishida, H., Watanabe, M., Suzuki, T., Miura, K., Kawaguchi, M., and *Suzaki, T.

Nitrate transport via NRT2.1 mediates NIN-LIKE PROTEIN-dependent suppression of root nodulation in Lotus japonicus.

Plant Cell, 34, 1844-1862 (2022) Linkプレスリリース

窒素固定細菌との共生器官として機能する根粒の形成は、硝酸などの窒素栄養が土壌中に存在すると抑制されます。近年、この現象の制御に関わる因子が相次いで同定されていますが、窒素栄養と根粒共生を結びつける具体的な仕組みは未解明のままでした。今回の研究では、ミヤコグサの硝酸イオン輸送体LjNRT2.1が硝酸イオンの量に応じた根粒共生の抑制制御を仲介する機能を持つことを示しました。また、根粒形成の進行に伴ってLjNRT2.1の遺伝子発現の抑制により土壌からの硝酸イオンの取り込みが抑制される可能性が示唆されました。これらの発見によって、根粒共生を行うマメ科植物ならではの栄養獲得戦略の仕組みの一端が明らかになりました。


10. 栄養バランスに応じた植物の成長制御に重要な膜交通制御因子を発見(佐藤班)

Hasegawa, Y., Reyes, T.H., Uemura, T., Baral, A., Fujimaki, A., Luo, Y., Morita, Y., Saeki, Y., Maekawa, S., Yasuda, S., Mukuta, K., Fukao, Y., Tanaka, K., Nakano, A., Takagi, J., Bhalerao, R.P., Yamaguchi, J., and *Sato, T.

The TGN/EE SNARE protein SYP61 and the ubiquitin ligase ATL31 cooperatively regulate plant responses to carbon/nitrogen conditions in Arabidopsis.

Plant Cell, 34, 1354-1374 (2022) Linkプレスリリース

我々ヒトと同様に,栄養バランスの乱れは様々なかたちで植物の成長に悪影響を及ぼします。特に,代謝の根幹を担う糖(炭素源,C)と窒素(N)のバランスは重要で,C/Nバランスの乱れは発芽阻害や葉の老化促進,バイオマスの低下に繋がることが知られています。しかし,こうしたC/Nバランス異常への適応メカニズムはあまりわかっていません。本研究では,細胞内の膜交通制御因子であるSNAREタンパク質SYP61が植物のC/Nストレス耐性付与に重要な役割を果たすことを明らかにしました。さらに,SYP61の機能がユビキチン化修飾によって制御される可能性が示され,環境ストレスに応じた膜交通制御機構について新たな知見が得られました。


9. 植物の免疫応答を抑制する化合物を発見(吉田班・白須)

Ishihama, N., Choi, S-W., Noutoshi, Y., Saska, I., Asai, S., Takizawa, K., He., S.Y., Osada, H., and *Shirasu, K.

Oxicam-type nonsteroidal anti-inflammatory drugs inhibit NPR1-mediated salicylic acid pathway.

Nature Commun., 12, 7303 (2021) Linkプレスリリース

植物は、病原菌の感染行動を認識すると、生体防御反応を誘導することで病原菌の感染および増殖を防ぎます。ヒトの非ステロイド性抗炎症薬として知られるサリチル酸は、ヤナギの樹皮から抽出した解熱鎮痛剤の実体として2000年以上前から使用されてきましたが、植物体内においては、サリチル酸は内生のシグナル分子であり、転写補助因子NPR1を介して植物免疫応答を活性化する働きを持っています。今回新たに化合物ライブラリーから植物の免疫応答を抑制する化合物として、化学構造の類似した3種類のオキシカム系非ステロイド性抗炎症薬を同定しました。さらに、その1つが細胞内の酸化還元状態を酸化側に傾かせること、そしてサリチル酸で発現が上昇する遺伝子群を広範に抑制することを示し、サリチル酸のシグナル伝達機構の一端を明らかにしました。


8. 植物の免疫系が自身の虫害抵抗性を抑制する仕組みを解明(松下班・多田)

Nomoto, M., Skelly, M.J., Itaya, T., Mori, T., Suzuki, T., Matsushita, T., Tokizawa, M., Kuwata, K., Mori, H., Yamamoto, Y.Y., Higashiyama, T., Tsukagoshi, H., *Spoel, S.H., and *Tada, Y.

Suppression of MYC transcription activators by the immune cofactor NPR1 fine tunes plant immune responses.

Cell Rep., 37, 110125 (2021) Linkプレスリリース

植物は、ヒトなどの動物と同様に高度な免疫系を保有しており、植物が病原体を感知すると、免疫系を活性化することでその感染を防除します。一方、植物は虫害防御システムも備えており、昆虫が葉を摂食すると、植物は忌避物質などを生成することで虫害を防ぎます。この植物免疫系と虫害防御システムは拮抗的な関係にあり、免疫系を活性化している植物は、虫害被害を受けやすくなることが知られていますが、その仕組みは長年謎のままでした。本研究では、免疫系の活性化因子であるNPR1が、虫害防御システムの鍵転写因子であるMYCと結合することで、虫害抵抗性遺伝子の発現を抑制することを明らかにしました。つまり、NPR1は免疫系の活性化因子であると同時に、虫害防御システムの抑制因子として機能することが分かりました。


7. 土壌中の窒素量に応じて開花時期を調節する分子機構を解明(木下班・今泉)

Sanagi, M., Aoyama, S., Kubo, A., Lu, Y., Sato, Y., Ito, S., Abe, M., Mitsuda, N., Ohme-Takagi, M., Kiba, T., Nakagami, H., Rolland, F., Yamaguchi, J., *Imaizumi, T., and *Sato, T.

Low nitrogen conditions accelerate flowering by modulating the phosphorylation state of FLOWERING BHLH 4 in Arabidopsis.

Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 118, e2022942118 (2021) Linkプレスリリース

土壌中の窒素量が開花時期に影響を及ぼすという観察は農作物でも見受けられますがそのメカニズムは殆ど分かっていませんでした。本研究では、窒素量に応じてリン酸化の程度が顕著に異なる転写因子が開花制御に重要な因子であるFBH4であることを発見しました。さらに培養条件中の窒素量によりFBH4タンパク質のリン酸化修飾変化が起こり、タンパク質の細胞内局在を変化させることによって転写因子の活性を制御していることが示唆されました。その上FBH4タンパク質はSnRK1リン酸化酵素によりリン酸化される事、また窒素量に応じてSnRK1の活性が変わる事を見出しました。これらのメカニズムを介して窒素量の変化が開花時期を調節する事を明らかにしました。


6. 微量DNAから実施可能な全ゲノム長鎖DNAメチル化解析手法を開発(松下班・関)

Sakamoto, Y., Zaha, S., Nagasawa, S., Miyake, S., Kojima, Y., Suzuki, A., *Suzuki, Y., and *Seki, M.

Long-read whole-genome methylation patterning using enzymatic base conversion and nanopore sequencing.

Nucleic Acids Res., 49, e81 (2021) Linkプレスリリース

DNAメチル化は、遺伝子発現量の調節などに中心的な役割を果たしていて、細胞の分化や病気などに重要な役割を担っています。これまでのDNAメチル化解析手法は、短いDNAを解析する方法が主で、1本の長いDNAがどのようにメチル化されているのかは十分にわかっていませんでした。近年、ナノポアシークエンサーといった長いDNAを読み取ることのできるシークエンサーが登場し、長いDNAのメチル化の解析が可能となりましたが、多量のDNAを必要とするため実施できるサンプルが限られていました。今回、酵素を利用した塩基変換法とナノポアシークエンスを組み合わせて、通常のナノポアシークエンスの1/100程度のDNA量から実施できる全ゲノムDNAメチル化解析手法nanoEMを開発しました。さらに、nanoEMを微量の臨床サンプルにも適用できることを示しました。


5. 窒素栄養によって根粒形成遺伝子の発現が調節される仕組みを解明(壽崎班)

#Nishida, H., #Nosaki, S., Suzuki, T., Ito, M., Miyakawa, T., Nomoto, M., Tada, Y., Miura, K., Tanokura, M., Kawaguchi, M., and *Suzaki, T.

Different DNA-binding specificities of NLP and NIN transcription factors underlie nitrate-induced control of root nodulation.

Plant Cell, 33, 2340-2359 (2021) Linkプレスリリース

高濃度の窒素栄養が含まれる土壌では根粒形成が抑制されます。NLP転写因子がその制御に関わることが知られていましたが、根粒形成を促進または抑制する遺伝子が高窒素栄養環境では具体的にどのような仕組みによって発現調節を受けるのかはよく分かっていませんでした。今回の研究では、硝酸栄養存在下でNLPと根粒を作る働きを持つNIN転写因子が相互作用をすることで、NINの標的遺伝子の発現が抑制されることを示しました。また、NLPとNINのDNA結合特異性の違いがその制御の背景にあることも分かりました。これらの発見により、NLPをハブとした硝酸栄養に応じた遺伝子発現と根粒形成抑制の基本制御メカニズムが明らかになりました。


4. 硝酸イオン輸送体NRT2.1の活性をオンにする脱リン酸化酵素を発見(松林班)

Ohkubo, Y., Kuwata, K., and *Matsubayashi, Y.

A type 2C protein phosphatase activates high-affinity nitrate uptake by dephosphorylating NRT2.1.

Nature Plants, 7, 310-316 (2021) Linkプレスリリース

窒素は植物の成長に最も重要な栄養素のひとつであり、土壌中に存在する硝酸を主要な窒素源として根から吸収しています。この硝酸吸収の過程で主要な役割を担うのが、根の表面に存在する硝酸イオン輸送体NRT2.1です。NRT2.1の活性はリン酸化修飾によってオフとなることが知られていましたが、この過程の可逆性や制御に関わる酵素についてはよく分かっていませんでした。今回の研究では、NRT2.1を脱リン酸化して硝酸吸収活性をオンにする脱リン酸化酵素CEPHを発見し、この過程が可逆的であるとともに、窒素欠乏に応答した硝酸吸収制御の重要なスイッチング機構であることを示しました。植物は窒素が十分あるうちにNRT2.1を多めに合成して不活性型でストックしておき、窒素不足になった時にCEPHを使って活性化することで、変動する窒素栄養環境に巧みに適応していることが明らかになりました。


3. アンチセンス転写によって駆動されるエピゲノム制御機構の発見(佐瀬班・稲垣)

*Inagaki, S., Takahashi, M., Takashima, K., Oya, S., and Kakutani, T.

Chromatin-based mechanisms to coordinate convergent overlapping transcription.

Nature Plants, 7, 295-302 (2021) Link, プレスリリース

生物のゲノム上ではタンパク質をコードする遺伝子のみならず、非コード転写も頻繁に起きており、ゲノム上では入り組んだ転写が起きていることが分かってきていますが、この入り組んだ転写を調節する仕組みはほとんど理解されていません。今回の研究では、ゲノムが小さく、遺伝子が密に並んでいるシロイヌナズナにおいて、数百もの遺伝子領域において逆向きにオーバーラップする転写(アンチセンス転写)が起きていること、またこのアンチセンス転写が起きている領域の転写を調節する新たなエピゲノム制御機構を見出しました。またこの制御は、植物が冬の低温を記憶し春に開花する仕組みに関与しています。これらの結果は、ゲノム上での近隣遺伝子との関係性がエピゲノムを介して遺伝子発現や環境への適応に果たす役割を示唆しています。


2. 植物の養分吸収、気孔開口や光合成に多大な影響を与える重要因子の発見(木下班)

Zhang, M., Wang, Y., Chen, X., Xu, F., Ding, M., Ye, W., Kawai, Y., Toda, Y., Hayashi, Y., Suzuki, T., Zeng, H., Xiao, L., Xiao, X., Xu, J., Guo, S., Yan, F., Shen, Q., Xu, G., *Kinoshita, T., and *Zhu, Y.

Plasma membrane H+-ATPase overexpression increases rice yield via simultaneous enhancement of nutrient uptake and photosynthesis.

Nature Commun., 12, 735 (2021) Link, プレスリリース

植物は、根から窒素などの養分を吸収すると同時に、葉の気孔を開き、CO2を取り込んで光合成を行い、成長しています。本研究では、イネの養分吸収と気孔開口について解析を行い、細胞膜プロトンポンプと呼ばれる酵素が共通して重要な役割を果たすことが明らかとなりました。そこで、プロトンポンプ過剰発現イネの詳細な解析を行ったところ、野生株と比べ、根での養分吸収、気孔開口、光合成活性が20%以上増加し、隔離水田での栽培試験において収量が30%以上増加することが明らかとなりました。さらに過剰発現イネでは窒素の施肥量を半分に減らしても、通常より収量が多いことを見出しました。本研究の成果は、今後、食糧増産や環境問題に大きく関わるCO2や肥料の削減に貢献することが期待されます。


1. 環境変化に応じて遺伝子が細胞核内の空間配置を変化させる仕組みを解明(杉本班・松永)

Sakamoto, Y., Sato, M., Sato, Y., Harada, A., Suzuki, T., Goto, C., Tamura, K., Toyooka, K., Kimura, H., Ohkawa, Y., Hara-Nishimura, I., Takagi, S., and *Matsunaga, S.

Subnuclear gene positioning through lamina association affects copper tolerance.

Nature Commun., 11, 5914 (2020) Link, プレスリリース

遺伝子は3次元的にDNAがパッケージングされた細胞核内で、空間に配置されています。そのため、遺伝子が細胞核内の3次元的配置を変化させて、遺伝子発現のON/OFFを調節することが知られていましたが、その詳細なメカニズムは不明なままでした。細胞核内の遺伝子の3次元的配置を制御するタンパク質として、核膜裏打ちタンパク質CRWNを同定しました。また、蛍光イメージング、クロマチン挿入標識(CHIL)、蛍光in situ hybridization (FISH)を用いることで、外部環境の変化に応じて遺伝子の空間配置が変化することが明らかになりました。銅環境の変化に合わせて銅関連遺伝子の空間配置が変化し、銅関連遺伝子がCRWNに結合することで遺伝子の発現がONになることがわかりました。