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論文発表

注目の論文

35. 病原細菌が植物の感染感知能力を無効化する機構の解明(吉田班・白須)

Goto, Y., *Kadota, Y., Mbengue, M., Lewis, J.D., Matsui, H., Maki, N., Ngou, B.P.M., Sklenar, J., Derbyshire, P., Shibata, A., Ichihashi, Y., Guttman, D.S., Nakagami, H., Suzuki, T., Menke, F.L.H., Robatzek, S., Desveaux, D., Zipfel, C., and *Shirasu, K.

The leucine-rich repeat receptor kinase QSK1 regulates PRR-RBOHD complexes targeted by the bacterial effector HopF2Pto.

Plant Cell, 36, 4932-4951 (2024) Linkプレスリリース

植物は病原菌由来の物質を細胞膜局在型の免疫受容体によって認識し、病原菌の侵入を感知します。免疫受容体が過剰に反応すると、過剰な免疫反応や成長抑制を引き起こすため、厳密な制御が必要です。しかし、免疫受容体の制御機構には未解明な部分が多いのが現状です。一方、病原細菌は感染の過程で、病原性因子と呼ばれるタンパク質を植物細胞内に注入して、免疫受容体を介した防御応答を抑制します。高病原性の細菌の病原性因子HopF2Ptoは免疫受容体により誘導される防御応答を強く抑制する活性を持つことが知られていましたが、その分子機構は未解明でした。本研究では、植物の細胞膜局在型の免疫受容体と複合体を形成する因子を探索し、受容体様リン酸化酵素QSK1を発見しました。このQSK1は免疫受容体の量を減少させる機能を持っていました。さらに興味深いことに、HopF2PtoはQSK1と結合すると植物細胞内で安定化し、免疫受容体の量を劇的に減少させました。また、HopF2Ptoはさまざまな免疫受容体の発現とともに、免疫反応を増強する分子であるファイトサイトカイン、およびファイトサイトカイン受容体の発現も抑制しました。このように、HopF2Ptoは植物免疫の機能を低下させる因子QSK1を用いて植物の感染感知能力を無効化していることが明らかになりました。

34. 植物の時計が環境の温度変化に惑わされない仕組み(中道班)

Maeda, A.E., Matsuo, H., Muranaka, T., and *Nakamichi, N.

Cold-induced degradation of core clock proteins implements temperature compensation in the Arabidopsis circadian clock.

Sci. Adv., 10, eadq0187 (2024) Linkプレスリリース

多くの生物は体内時計を備えており、これによって昼夜の変化に予期的に応答しています。時計の重要な性質の1つに、環境の温度に依存せずに一定のスピードで時計の針を進めるという「周期の温度補償性」が知られています。これは、生命現象や生化学反応の進行は温度に依存するという一般則から外れており、そのメカニズムは長らく謎のままでした。本研究では、時計のブレーキ役として知られていたTOC1タンパク質とそのホモログのPRR5の温度に応答した量的制御が、温度補償性にとって重要であることを発見しました。TOC1とPRR5は低温でユビキチン修飾を受けて分解されていましたが、プロテオミクス解析によってこの分解に関わる候補としてユビキチンE3リガーゼであるLKP2を見出しました。lkp2変異体は低温でのTOC1とPRR5の分解が滞り、さらに低温で不必要に長くなった概日周期を示しました。以上から、LKP2が積極的に温度に応じてTOC1とPRR5の量を調節することで、時計のスピードを温度に惑わされず一定に保っていると考えられます。今回の発見は、植物の温度受容の包括的な理解に向けた新たな突破口になると期待されます。

33. 変動する自然環境下で概日リズムと環境情報が統合されるプロセスを解明(西尾班)

Nishio, H., Cano-Ramirez, D.L., Muranaka, T., Dantas, L.L.B., Honjo, M.N., Sugisaka, J., Kudoh, H., and *Dodd, A.N.

Circadian and environmental signal integration in a natural population of Arabidopsis.

Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 121, e2402697121 (2024) Linkプレスリリース

植物は24時間の環境の日内変動において、体内の概日時計と光や温度といった外部環境の手がかりを統合し、シグナル伝達を通じて細胞応答を引き起こします。しかし、自然環境下で生育する植物が情報を統合し伝達する仕組みは、まだ十分に理解されていません。当研究グループはハクサンハタザオ(Arabidopsis halleri)の自然集団を対象として、核から葉緑体へのシグナル伝達に関する遺伝子の発現を定量しました。環境操作実験や複数の統計モデリングを行なった結果、この経路の自然条件下での主要な調節因子は、概日時計と温度であることがわかりました。また、経路の構成遺伝子間における時間遅延ステップと、日周期的な温度応答の変動を特定しました。これらは概日時計のゲーティングと呼ばれるプロセスが自然環境下で働いていることを示唆しています。さらに、本研究で用いたモデリング手法は、日周期的な振動を持ち、環境シグナルに応答する他のシグナル伝達経路にも適用可能であることがわかりました。このように、フィールドでの遺伝子発現研究とモデリングを組み合わせるアプローチにより、自然環境下での日内環境変動が植物細胞内でどのように動的に統合・伝達されているかを示すことができました。

32. 植物も食いだめしないと変動窒素環境下では生きていけない!(松林班)

Kobayashi, R., Ohkubo, Y., Izumi, M., Ota, R., Yamada, K., Hayashi, Y., Yamashita, Y., Noda, S., Ogawa-Ohnishi, M., and *Matsubayashi, Y.

Integration of shoot-derived polypeptide signals by root TGA transcription factors is essential for survival under fluctuating nitrogen environments.

Nature Commun., 15, 6903 (2024) Linkプレスリリース

窒素は植物の成長に最も重要な栄養素のひとつで、主に硝酸イオンを根から吸収していますが、その吸収は、葉からの篩管移行性ペプチドシグナルによって調節されています。本研究では、植物体の窒素需要を根に知らせるシグナルとして、既に報告していた空腹シグナルCEPD1/2/CEPDL2に加えて、満腹シグナルとしてGrxSファミリーが存在することを発見しました。さらに本研究では、根に移行したCEPD1/2/CEPDL2とGrxSが、互いに競合的に転写因子TGA1およびTGA4に直接結合することを見出しました。TGA1/4に対して空腹シグナルCEPD1/2/CEPDL2が結合すると、コアクチベーターとして窒素吸収遺伝子群の発現を促進し、満腹シグナルGrxSはコリプレッサーのTOPLESSと複合体を形成してTGA1/4に結合するため、窒素吸収遺伝子群の発現を抑制します。転写因子TGA1/4を欠損した植物は、葉からの空腹シグナルを根が受け取ることができず、需要の高まりに応じた窒素吸収促進ができないため、窒素欠乏が周期的に繰り返されるような変動窒素環境下では、葉が小さくなるなど正常に生育できません。すなわち、植物も空腹に応じて食いだめしないと変動窒素環境下では生きていけないのです。これらの結果は、刻々と変動する土壌窒素栄養環境への植物の適応のしくみを理解する上で重要な手がかりとなり、今後の農業分野への応用も期待されます。

31. 道管の機能性制御におけるタンパク質ユビキチン化制御の重要性を発見(大谷班)

Phookaew, P., Ma, Y., Suzuki, T., Stolze, S.C., Harzen, A., Sano, R., Nakagami, H., Demura, T., and *Ohtani, M.

Active protein ubiquitination regulates xylem vessel functionality.

Plant Cell, 36, 3298–3317 (2024) Linkプレスリリース

被子植物において体内水輸送を担う道管の機能性制御は、植物の成長・発生制御を理解する上で重要な研究課題です。これまでに大谷班らは、道管細胞分化を制御する転写制御ネットワークの解明を行ってきました。しかしながら、この転写制御ネットワークを通してどのように環境に合わせた道管形成が行われているのかについては不明な点が多く残されています。本論文では、シロイヌナズナ道管細胞分化誘導系を材料とした分子遺伝学的解析およびマルチオミクス解析から、タンパク質翻訳後修飾の1つであるユビキチン化が道管機能制御の鍵を握ることを明らかにしました。とくに道管細胞が分化する過程では多くのタンパク質がユビキチン化されていること、そのターゲットの1つが道管細胞分化マスタースイッチである転写因子VND7であることが示され、とくに後者については、ユビキチン化がVND7の転写活性化能を制御する重要要素であることを突き止めました。タンパク質翻訳後修飾は、生物が外的環境に応答してタンパク質機能を調節する重要なメカニズムです。本研究成果によって、植物の水利用効率の向上や環境に調和した穀物・バイオマス増産技術の開発が進むことが期待されます。

30. ヒストンH3K9メチル化が転写の抑制と活性化の二刀流として働くことを発見(佐瀬班・稲垣)

Yabe, K., Kamio, A., Oya, S., Kakutani, T., Hirayama, M., Tanaka, Y., and *Inagaki, S.

H3K9 methylation regulates heterochromatin silencing through incoherent feedforward loops.

Sci. Adv., 9, eadn4149 (2024) Linkプレスリリース

真核生物に広く保存されたヒストン修飾であるH3K9メチル化は、ヘテロクロマチンの形成と転写の抑制に重要な役割を持つことが知られています。しかし、H3K9メチル化がどのように転写を抑制するのか、その詳細な仕組みは明らかになっていませんでした。本研究では、H3K9メチル化が転写を抑制する仕組みを明らかにする中で、H3K9メチル化が転写抑制機能に加えて、真逆の機能、つまり転写促進機能を持つことを明らかにしました。このH3K9メチル化が持つ「二刀流」の機能は転写抑制に働くタンパク質LDL2と、LDL2の機能を阻害することによって転写を促進するタンパク質ASHH3によって実現されることがわかりました。ASHH3はH3K9メチル化がある領域にH3K36メチル化という転写の活性化と関連したヒストンマークを導入するという、従来の定説からは全く予想外の働きをしていることが明らかになりました。本研究の成果は、エピジェネティクス研究の初期に発見され長い間転写の抑制修飾として信じられてきたH3K9メチル化の機能について一石を投じるものであり、同様の仕組みが他の生物でも見つかる可能性が考えられます。また、H3K9メチル化の二刀流制御による転写の微調整が植物の可塑的な環境応答に果たす役割に興味がもたれます。

29. 植物免疫の活性化に関わるタンパク質分解酵素を発見(松林班)

Matsui, S., Noda, S., Kuwata, K., Nomoto, M., Tada, Y., Shinohara, H., and *Matsubayashi, Y.

Arabidopsis SBT5.2 and SBT1.7 subtilases mediate C-terminal cleavage of flg22 epitope from bacterial flagellin.

Nature Commun., 15, 3762 (2024) Linkプレスリリース

植物は、病原細菌が移動する上で重要な器官であるべん毛の構成タンパク質であるフラジェリンを認識して免疫応答を開始します。このとき、フラジェリンはタンパク質全体が認識されるわけではなく、その中の一部分のペプチドが認識されることで、免疫が誘導されます。この免疫誘導ペプチドは、植物のプロテアーゼによってフラジェリンが断片化されることで生じると考えられてきましたが、実際にフラジェリンがどのように断片化されるのか、また植物に多数存在するプロテアーゼのうちどれがフラジェリンの断片化に関わるのかについては分かっていませんでした。本研究では、フラジェリンが植物の酵素によってどのように断片化されるかを明らかにし、さらに、植物のプロテアーゼSBT5.2とSBT1.7が、フラジェリンを断片化して免疫誘導ペプチドを切り出す過程に関わることを突き止めました。これらの結果は、植物が病原細菌を認識するしくみ理解する上での重要な手掛かりとなり、病気に強い植物の作出などの農業的応用につながることも期待されます。

28. 光によってプロトンポンプが活性化し気孔が開くしくみを解明(武宮班)

Fuji, S., Yamauchi, S., Sugiyama, N., Kohchi, T., Nishihama, R., Shimazaki, K., and *Takemiya, A.

Light-induced stomatal opening requires phosphorylation of the C-terminal autoinhibitory domain of plasma membrane H+-ATPase.

Nature Commun., 15, 1195 (2024) Linkプレスリリース

気孔は陸上植物の表皮にある孔であり、光に応答して開口し、光合成に必要な二酸化炭素の吸収を促進します。細胞膜H+-ATPaseは細胞内のH+を細胞外へ汲み出す酵素であり、気孔開口の駆動力を形成します。しかし、H+-ATPaseが光によって活性化するしくみについては、これまで解明されていませんでした。本研究では、気孔を構成する孔辺細胞において、H+-ATPaseの自己阻害領域に存在する2カ所のThr残基(Thr-881, Thr-948)が青色光に応答して特異的にリン酸化されることを発見し、これらのリン酸化がH+-ATPaseの活性化と気孔開口に必須であることを突き止めました。さらにThr-881は孔辺細胞の光合成によってもリン酸化され、気孔開口を促進することを示しました。このしくみを応用することで、H+-ATPaseのはたらきや気孔の開閉を人為的に制御することが可能となり、CO2吸収力や成長を向上させた植物を開発できる可能性があります。なお、本論文は木下班の論文とback-to-backでNature Communications 誌の同一号に掲載されました。

27. 気孔開口に必須の細胞膜プロトンポンプの新規活性調節機構を解明(木下班)

Hayashi, Y., Fukatsu, K., Takahashi, K., Kinoshita, S.N., Kato, K., Sakakibara, T., Kuwata, K., and *Kinoshita, T.

Phosphorylation of plasma membrane H+-ATPase Thr881 participates in light-induced stomatal opening.

Nature Commun., 15, 1194 (2024) Linkプレスリリース

本研究では、光による気孔開口の分子機構を解明することを目的とし、ソラマメ孔辺細胞プロトプラストを用いた網羅的なホスホプロテオミクスと、シロイヌナズナを用いた遺伝子組換え実験を行いました。その結果、気孔開口において必須の役割を担う細胞膜プロトンポンプの、すでに知られているC末端から2番目のスレオニン残基(Thr948)の青色光によるリン酸化に加え、881番目のスレオニン残基(Thr881)の孔辺細胞葉緑体に作用する赤色光と青色光受容体フォトトロピンに作用する青色光によるリン酸化が、気孔開口に必要であることが明らかとなりました。また、Thr881のリン酸化は、孔辺細胞のみならず、葉や芽生えにおいても観察されること、さらに、リン酸化Thr881の脱リン酸化には、タイプ2CプロテインホスファターゼDが関与することも明らかとなりました。気孔は、シグナルとして作用する青色光のみでは開口せず、孔辺細胞の光合成を誘導する赤色光が必要であることが知られていましたが、本研究により、気孔開口における赤色光と青色光の効果を繋ぐ分子機構の一端が明らかになり、植物のマスターエンザイム・細胞膜プロトンポンプの精緻な活性調節機構が明らかとなりました。なお、本論文は武宮班の論文とback-to-backでNature Communications 誌の同一号に掲載されました。


26. ストレス応答を制御するジャスモン酸の働きで花びらが散る仕組みを解明(山口班)

Furuta, Y., Yamamoto, H., Hirakawa, T., Uemura, A., Pelayo, M.A., Iimura, H., Katagiri, N., Takeda-Kamiya, N., Kumaishi, K., Shirakawa, M., Ishiguro, S., Ichihashi, Y., Suzuki, T., Goh, T., Toyooka, K., *Ito, T., and *Yamaguchi, N.

Petal abscission is promoted by jasmonic acid-induced autophagy at Arabidopsis petal bases.

Nature Commun., 15, 1098 (2024) Linkプレスリリース

ジャスモン酸は病害虫、傷害などの環境ストレス応答におけるシグナル伝達物質として機能するだけでなく、花びらが脱離するという植物の成長や老化を制御する上でも重要な植物ホルモンである。ジャスモン酸の合成ができない突然変異体では花びらの脱離が遅れることは知られていましたが、その仕組みは不明でした。本研究では、この突然変異体を用いたトランスクリプトーム解析を行い、鍵となる転写因子をコードするNAC DOMAIN CONTAINING PROTRIN102 (NAC102)を同定しました。このNAC102遺伝子は花びらの根元で限定的に発現します。さらに、NAC転写因子の直接標的を網羅的に同定し、オートファジーを制御するAUTOPHAGY (ATG)遺伝子群があることを見出しました。このATG遺伝子の働きにより、オートファジーが花びらの根元で限定的に促進されて、花びらの脱離が起こることがわかりました。これらの知見によって、花びらが散る仕組みの一端が明らかになりました。


25. 植物免疫受容体の進化の軌跡を解明(吉田班・白須)

Ngou, B.P.M., Wyler, M., Schmid, M.W., *Kadota, Y., and *Shirasu, K.

Evolutionary trajectory of pattern recognition receptors in plants.

Nature Commun., 15, 308 (2024) Linkプレスリリース

植物が陸上に進出し、多様な微生物と遭遇する中で、どのようにして病原微生物を認識する能力を獲得したのか、植物免疫の起源に関しては未解明でした。本研究では、公開されている350種の植物ゲノム情報から、細胞膜に局在する受容体をコードする遺伝子を約21万個抽出して比較解析を行いました。そして、病原体の侵入を認識する免疫受容体群(ロイシンリッチリピート(LRR)受容体型リン酸化酵素(LRR-RLKs)、およびロイシンリッチリピート受容体様タンパク質(LRR-RLPs))の進化の軌跡を調べました。その結果、LRR-RLPs型の免疫受容体群は発生・成長の制御を担う受容体群と共通の祖先から派生し、進化の過程でそれぞれの機能に必要なモジュールを獲得することで異なる受容体へと進化したことが分かりました。これにより、植物免疫を理解する上で重要な疑問の一つであった植物免疫の起源について、本研究は分子レベルでの解答を与えることができました。さらに免疫型LRR-RLPsと発生・成長型LRR-RLK-Xbsの進化と、それぞれが進化させた機能的モジュールが明らかになりました。本研究によって、植物のゲノム情報から、免疫受容体として働く遺伝子と発生・成長に関わる遺伝子を簡便かつ正確に予測することができるようになりました。


24. 体内の窒素状態に応じて植物が根粒菌に鉄を供給する仕組みを解明(壽崎班)

Ito, M., Tajima, Y., Ogawa-Ohnishi, M., Nishida, H., Nosaki, S., Noda, M., Sotta, N., Kawade, K., Kamiya, T., Fujiwara, T., Matsubayashi, Y., and *Suzaki, T.

IMA peptides regulate root nodulation and nitrogen homeostasis by providing iron according to internal nitrogen status.

Nature Commun., 15, 733 (2024) Linkプレスリリース


マメ科植物の根に形成される根粒の中で、根粒菌は空中窒素をアンモニアに変換する窒素固定を行います。窒素固定反応を触媒する酵素として知られるニトロゲナーゼが働くためには鉄が必要です。しかしながら、どこから、どのように鉄が根粒へと運ばれて窒素固定のために使われるのか、その仕組みは不明でした。本研究では、ミヤコグサの根粒形成過程における体内の窒素状態に応じたトランスクリプトーム解析を行い、IRON MAN (IMA)ペプチドを同定しました。IMAペプチドをコードする遺伝子は根粒菌の感染によって全身的(地上部と根)に発現し、根粒に鉄を集める働きを持つことが分かりました。さらに、シロイヌナズナにおけるIMAペプチドの機能解析によって、ミヤコグサとシロイヌナズナのいずれにも、IMAペプチドが植物体内の窒素量の増加に応じて鉄を得ることで窒素恒常性を維持し、植物の成長を制御する仕組みが存在することを発見しました。これらの知見によって、窒素と鉄のバランス調節を介した植物の環境適応および成長制御の仕組みの一端が明らかになりました。


23. メッセンジャーRNAの5’末端を高い特異性で検出するTSS-seq2法を開発(松下班・関)

*Seki, M., Kuze, Y., Zhang, X., Kurotani, K.-i., Notaguchi, M., Nishio, H., Kudoh, H., Suzaki, T., Yoshida, S., Sugano, S., Matsushita, T., and *Suzuki, Y.

An improved method for the highly specific detection of transcription start sites.

Nucleic Acids Res., 52, e7 (2024) Linkプレスリリース

ゲノムから遺伝子が読み取られるDNA上での位置である転写開始点(TSS)を網羅的に決定するTSS-seq2法を開発しました。さらに、領域内の吉田班、野田口班、壽崎班、西尾班との共同研究により、コシオガマ、ベンサミアナタバコ、ミヤコグサ、ハクサンハタザオの4種類の植物について、TSS情報の収集を行いました。TSSの決定は、RNAの正確な構造や、TSSの近辺に存在して遺伝子の機能を調節する領域であるプロモーターを同定するために重要です。正確性の高いTSS検出法は、必要なRNAの量が多く、プロトコルが複雑であるなど、簡単には実施できない手法が主でした。今回、開発したTSS-seq2は、比較的簡単なプロトコルで、他の既存の方法よりも特異的にTSSを検出でき、5ナノグラムと少量のRNAからでも実施できます。TSS-seq2により、様々な生物種や組織でのmRNAの正確な構造の同定や遺伝子の制御の研究、特に、希少な細胞種や微小な組織などの少量のサンプルの解析への応用が期待されます。また、今回収集した植物のTSS情報は、これらの植物種の研究の基盤データとなることが期待されます。


22. 遺伝子の転写をヒストンの脱メチル化で記録する分子機構の解明(佐瀬班・稲垣)

*Mori, S., Oya, S., Takahashi, M., Takashima, K., *Inagaki, S., and *Kakutani, T.

Cotranscriptional demethylation induces global loss of H3K4me2 from active genes in Arabidopsis.

EMBO J., e113798 (2023) Linkプレスリリース

変動する自然環境の中で植物が効率的に遺伝子発現を変動させて環境に適応するためには、過去の遺伝子発現状態の情報を活かし、次に来る同様の環境変動に迅速に応答する必要があると考えられます。しかし、遺伝子の転写活性をどのように記録するのか、その分子メカニズムは不明でした。本研究では一般的に転写活性型マークと考えられてきたヒストンH3の4番目のリジンのジメチル化(H3K4me2)は植物においては転写抑制的に働くこと、また、H3K4me2を除く脱メチル化酵素であるLDL3タンパク質が転写中のRNAポリメラーゼに結合して働き、転写が活発に起きている遺伝子領域からH3K4me2を除くことを明らかにしました。その結果出来上がる低H3K4me2レベル状態は遺伝子発現に促進的に働くと考えられます。LDL3タンパク質のRNAポリメラーゼとの結合能力は陸上植物の進化の過程で獲得されたと考えられることから、動けない植物が変動環境に迅速に対応する巧みな仕組みであると考えられます。


21. 遺伝子と転移因子配列の融合mRNAのエピジェネティック制御と環境ストレス応答(佐瀬班)

*Berthelier, J., Furci, L., Asai, S., Sadykova, M., Shimazaki, T., Shirasu, K., and *Saze, H.

Long-read direct RNA sequencing reveals epigenetic regulation of chimeric gene-transposon transcripts in Arabidopsis thaliana.

Nature Commun., 14, 3248 (2023) Linkプレスリリース

ゲノム中には転移因子(トランスポゾン)と呼ばれるDNA配列が多数存在しています。トランスポゾンはゲノム中を移動して遺伝子を破壊したり、自身のコピーを増幅させる性質があるため、植物はトランスポゾンの活性を抑制するDNAメチル化やヒストン修飾などのエピジェネティックな機構を進化させてきました。トランスポゾンは遺伝子の近傍や内部にも存在していますが、どのように遺伝子の発現と機能に影響するかは多くが未解明のままです。本研究では、RNAダイレクトシークエンシングという直接RNA分子を検出する技術を用いてシロイヌナズナを解析し、通常の遺伝子とトランスポゾン配列が融合したmRNAを転写する数千の遺伝子座を新たに同定しました。また、DNAメチル化やヒストン修飾の変化、環境ストレスが遺伝子-トランスポゾン転写産物の制御に影響を与えることも明らかになりました。さらに、領域内の吉田班白須グループとの共同研究により遺伝子-トランスポゾン転写産物の発現パターンが変化した変異体では病原体感染に対してより抵抗性が上昇していることも見出しました。高温や病原菌などのに応じてトランスポゾンの発現量が変化していることが分かりました。今回の研究からトランスポゾン配列による遺伝子転写制御と環境適応のメカニズムの一端が明らかになりました。


20. 植物ビリルビンの発見:変動する光環境下で酸化ストレスを低減する(木下班・児玉)

Ishikawa, K., Xie, X., Osaki, Y., Miyawaki, A., Numata, K., and *Kodama, Y.

Bilirubin is produced nonenzymatically in plants to maintain chloroplast redox status.

Sci. Adv., 9, eadh4787 (2023) Linkプレスリリース

ビリルビンはヒトなどの動物の血液に含まれるヘムの代謝産物として知られ、黄疸の原因物質として有名な色素です。人体においてはヘムの多くが赤血球中のグロビンというタンパク質に結合した「ヘモグロビン」として存在し、酸素を全身に輸送する機能を果たしています。一方で、血液が分解される際には、グロビンタンパク質から外れたヘム(遊離ヘム)が発生しますが、これが強い毒性を有することが知られています。そこで動物は、酵素を使って遊離ヘムを分解するシステムを有しています。動物では、遊離ヘムはビリベルジンという物質になった後、最終的にビリルビンに代謝されます。植物は血液を持ちませんが、動物と同様にヘムを有し、ヘムは酵素と結合することで、光合成や呼吸などで重要な役割を果たしています。しかし植物における遊離ヘムは、葉緑体内の酵素によってビリベルジンに変換されるものの、動物とは異なり、ビリルビンには代謝されないと考えられてきました。本研究では、ビリルビンに結合した際に蛍光を発するニホンウナギ由来UnaGタンパク質を用いて、様々な植物種でビリルビンが作られることを発見しました。また植物ビリルビンは、光合成の際に大量に発生するNADPHという物質と反応して非酵素的に作られ、酸化ストレスの低減に働いていました。この非酵素反応を介したメカニズムは、植物が変動する光環境に迅速に対応するために発達させたものと考えられます。


19. 植物の気孔開口を抑え、乾燥耐性を付与する天然物を新たに発見(木下班)

Aihara, Y., Maeda, B., Goto, K., Takahashi, K., Nomoto, M., Toh S., Ye, W., Toda, Y., Uchida, M., Asai, E., Tada, Y., Itami, K., Sato, A., *Murakami, K., and *Kinoshita, T.

Identification and improvement of isothiocyanate-based inhibitors on stomatal opening to act as drought tolerance–conferring agrochemicals.

Nature Commun., 14, 2665 (2023) Linkプレスリリース

植物の表皮には気孔が数多く存在し、植物はこの孔を通して光合成に必要な二酸化炭素を取り込み、蒸散や酸素の放出など、大気とのガス交換を行っています。気孔は一対の孔辺細胞により構成され、太陽光に含まれる青色光などに応答して開口します。孔辺細胞に青色光が照射されると、青色光受容体フォトトロピンが活性化し、細胞内シグナル伝達を経て細胞膜プロトンポンプを活性化し、気孔開口の駆動力が形成されますが、青色光がどのようにプロトンポンプを活性化するのか、シグナル伝達の詳細は完全には明らかになっていません。本研究では、気孔開度制御の分子機構を明らかにするため、気孔開度に影響を与える化合物の網羅的なスクリーニング(約3万)を実施しました。その結果、アブラナ目植物がもつ天然物のイソチオシアネートであるベンジルイソチオシアネート (BITC) が細胞膜プロトンポンプの活性化を抑制することで気孔開口を抑制することが明らかとなりました。また、BITCの分子構造を改良することによって、抑制活性がBITCよりも最大66倍強いスーパーITCの開発にも成功しました。スーパーITCは、植物ホルモン・アブシジン酸をしのぐ気孔開口抑制活性を有し、かつ、効果がより長期間持続することが分かりました。さらに、これらの化合物をキクの切花や土植えのハクサイに散布したところ、乾燥による葉のしおれが抑制されることが明らかとなり、切花や生け花の鮮度保持剤や農作物の乾燥耐性付与剤としての利用が期待される結果が得られました。


18. 植物の概日時計で働くコアクチベーターが低温・高温耐性獲得においても機能する(城所班)

*Kidokoro, S., Konoura, I., Soma, F., Suzuki, T., Miyakawa, T., Tanokura, M., *Shinozaki, K., and *Yamaguchi-Shinozaki, K.

Clock-regulated coactivators selectively control gene expression in response to different temperature stress conditions in Arabidopsis.

Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 120, e2216183120 (2023) Link

気温は自然界において絶え間なく変化しており、生物の成長や生存に多大な影響を与えます。植物は、常温時には明暗などの周期的な変化に応じて概日時計を介して成長を制御しています。一方で、低温ストレスや高温ストレスに晒されると、ストレスに応じた耐性遺伝子の発現を誘導します。本研究では、概日時計で働くことが知られていた転写コアクチベーターであるLNKファミリーが低温ストレスや高温ストレスの初期応答における遺伝子発現の誘導と耐性獲得にも機能することを明らかにしました。特に、シロイヌナズナが持つ4つのLNK(LNK1-LNK4)のうち、機能が未知であったLNK3とLNK4が低温ストレス時の遺伝子発現誘導において強く機能することを見出しました。またLNK1とLNK2は常温時と高温ストレス時の遺伝子発現誘導において機能していました。温度変化に応じたLNKタンパク質の使い分けにより、植物が成長と耐性獲得のシグナル経路を柔軟に切り替えることが可能になると考えられます。


17. アフリカの栽培イネが芒(のぎ)を失った理由を解明(芦苅班)

Bessho-Uehara, K., Masuda, K., Wang, D., Angeles-Shim, R., Obara, K., Nagai, K., Murase, R., Aoki, S., Furuta, T., Miura, K., Wu, J., Yamagata, Y., Yasui, H., Kantar, M., Yoshimura, A., Kamura, T., McCouch, S., and *Ashikari M.

REGULATOR OF AWN ELONGATION 3, an E3 ubiquitin ligase, is responsible for loss of awns during African rice domestication.

Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 120, e2207105120 (2023) Linkプレスリリース

人類はおよそ1万年かけて、野生イネを改良して栽培に適したものにしてきました。イネはアジアとアフリカの2地域で独立に栽培化されましたが、その標的となった表現型は両者で共通するものが多く、芒(のぎ)の喪失もその1つでした。イネの芒は種子先端に形成される突起状の構造物で、野生イネでは自然状況下において種子の拡散や鳥獣からの食害防除に役立っていますが、栽培する上では作業を煩雑化する形質で、栽培化の過程で取り除かれました。本研究では、栽培化の過程でアフリカイネが芒を失う原因となった遺伝子変異を同定しました。これまでに研究チームは、アジアイネの芒喪失にRAE1とRAE2の2つの遺伝子の機能欠損が重要であったことを示してきましたが、アフリカイネの芒喪失については詳しくわかっていませんでした。本研究では、アフリカイネにおける芒喪失はE3ユビキチンリガーゼをコードするRAE3という遺伝子の機能欠損が原因であったことを示しました。これまでアジアイネとアフリカイネの栽培化関連形質は、同じ遺伝子の異なる変異が選抜されることにより達成されてきたと報告されていましたが、今回初めて、アジアイネとアフリカイネで共通の栽培化形質(芒の喪失)が異なる遺伝子変異の選抜によってもたらされたことを明らかにしました。


16. 植物のストレス応答と成長のトレードオフを制御するペプチドホルモンの発見(松林班)

Ogawa-Ohnishi, M., Yamashita, T., Kakita, M., Nakayama, T., Ohkubo, Y., Hayashi, Y., Yamashita, Y., Nomura, T., Noda, S., Shinohara, H., and *Matsubayashi, Y.

Peptide ligand-mediated trade-off between plant growth and stress response.

Science, 378, 175-180 (2022) Linkプレスリリース

植物は、自然環境下における病害・温度・塩などの様々なストレスに適応するために、成長に使うエネルギーの一部を状況に応じてストレス応答に回すしくみを持っており、「成長とストレス応答のトレードオフ」と呼ばれます。本研究では、ペプチドホルモンPSYとその受容体PSYRが、細胞間シグナリングを介してストレス応答のONとOFFを切り替えていることを発見しました。非常に興味深いことに、受容体PSYRはリガンドであるPSYが結合していないときに活性化してストレス応答に関連する多数の転写因子群の発現を誘導し、逆にPSYの結合によって不活性化されます。普段は全身の細胞で発現しているPSYのはたらきにより、ストレス応答は抑制されていますが、この通常とは逆の活性化メカニズムによって、植物は巧みなストレス応答能力を発揮します。すなわち、組織の一部が環境ストレスによってダメージを受けて代謝不全になるとPSYが生産されなくなり、局所的にリガンド濃度が低下します。その結果、ダメージ部位の周辺部の細胞においてのみPSYRが活性化してストレス応答が誘導され、効率よくダメージの拡大を防ぐことができます。PSYとPSYRのはたらきによって、植物は不均一な環境ストレスに巧みに適応しています。


15. 寄生植物が宿主に接近するメカニズムの解明(吉田班・白須)

Ogawa, S., Cui, S., White, A. R. F., Nelson, D.C., Yoshida, Y., and *Shirasu, K.

Strigolactones are chemoattractants for host tropism in Orobanchaceae parasitic plants.

Nature Commun., 13, 4653 (2022) Linkプレスリリース

根寄生植物は、①宿主となる植物が近くにいることを認識し発芽する、②自身の根を宿主の根に向けて伸ばす、③根を連結させ栄養や水を奪う、という3段階を経て寄生を完了させます。このうち、①と③については研究が進められてきましたが、②の屈性と呼ばれる現象のメカニズムについてはほとんど明らかになっていませんでした。今回、国際共同研究グループは、ハマウツボ科寄生植物のコシオガマが宿主の根から放出される根圏情報物質のストリゴラクトン(SL)に対して屈性を示すことを発見しました。この屈性はアフリカなどで農業被害を引き起こしている同じハマウツボ科のストライガでも見られる一方で、非寄生植物では見られないことから、ハマウツボ科寄生植物に特有の戦略である可能性があります。また、SLへの屈性には植物ホルモンであるオーキシンの輸送が関与すること、屈性はアンモニウムイオンの存在下では抑制されることを発見し、さらにSLを認識して屈性を引き起こす受容体を同定しました。


14. ヒストン修飾の分布を決める2つの機構を発見(佐瀬班・稲垣)

*Oya, S., Takahashi, M., Takashima, K., *Kakutani, T., and *Inagaki, S.

Transcription-coupled and epigenome-encoded mechanisms direct H3K4 methylation.

Nature Commun., 13, 4521 (2022) Linkプレスリリース

ヒストン修飾の1つであるヒストンH3タンパク質の4番目のリジンのメチル化(H3K4メチル化)は、進化的保存性が高く、ゲノムの中でも特に発現レベルの高い遺伝子領域に分布してします。H3K4メチル化が遺伝子の発現を促進しているのか、あるいは遺伝子発現の結果導入されるものなのかといった点や、H3K4メチル化が特定のゲノム領域に導入される仕組みについては、いくつもの仮説が提案され、議論が続いていました。今回の研究では複数あるH3K4メチル化酵素それぞれのゲノム中の分布を実験的に決定し、局在パターンを機械学習によりモデル化する手法から、遺伝子の転写装置と共働するタイプのメチル化酵素と、特定のクロマチン修飾やDNA配列を標的にするタイプのメチル化酵素の2つが分業してH3K4メチル化を制御していることを見出しました。またこの2つの制御モードはシロイヌナズナとマウスという進化的に遠く離れた生物種間で保存されていることも見出しました。


13. 細胞核におけるDNA空間配置を決めるメカニズムを解明(杉本班・松永)

*Sakamoto, T., Sakamoto, Y., Grob, S., Slane, D., Yamashita, T., Ito, N., Oko, Y., Sugiyama, T., Higaki, T., Hasezawa, S., Tanaka, M., Matsui, A., Seki, M., Suzuki, T., Grossniklaus, U., and *Matsunaga, S.

Two-step regulation of centromere distribution by condensin II and the nuclear envelope proteins.

Nature Plants, 8, 940-953 (2022) Linkプレスリリース

様々な環境に対応する遺伝子発現を正常に実行するためには、細胞核内のDNAが3次元的に適切な空間配置ポジションをとることが重要であることが示唆されています。シロイヌナズナの変異体を使用してセントロメアを分散配置させるタンパク質群(CII-LINC複合体およびCRWN)の同定に成功し、二つの分子経路が関与することを明らかにしました。1885年以来、130年以上、謎であったセントロメアの空間配置パターンの分子メカニズムが明らかになりました。また、正常なセントロメアの空間配置ができなくなると、DNA損傷ストレスを受けた時に器官成長が悪くなることがわかりました。これは、生物が環境ストレスに対応するためには、細胞核内の適切なDNAの空間配置が必要なことを示唆しています。


12. 植物は雨に打たれると免疫を活性化する仕組みを解明(松下班・多田)

Matsumura, M., *Nomoto, M., Itaya, T., Aratani, Y., Iwamoto, M., Matsuura, T., Hayashi, Y., Mori, T., Skell, M.J., Yamamoto, Y.Y., Kinoshita, T., Mori, I.C., Suzuki, T., Betsuyaku, S., Spoel, S.H., Toyota, M., and *Tada, Y.

Mechanosensory trichome cells evoke a mechanical stimuli–induced immune response in Arabidopsis thaliana.

Nature Commun., 13, 1216 (2022) Linkプレスリリース

植物はヒトなどの多細胞生物と同様に免疫系を持っており、病原体を感知すると、免疫関連の遺伝子発現を介して感染を阻害します。一方で、植物に感染する病原体の多くは、雨によって媒介されます。雨滴の中には細菌、糸状菌やウイルスといった病原体が含まれており、それらが病害発生の直接的な原因になりうることも知られています。したがって、植物にとって雨は危険因子としての側面もありますが、植物が雨に対してどのように応答するかは未解明でした。本研究では、雨は葉の表面に存在する毛状の細胞(トライコーム)によって感知されると、トライコーム周辺の組織にカルシウムウェーブを誘導し、病原体に対する免疫を活性化し、その感染を防除することを明らかにしました。


11. 根粒共生における硝酸イオン輸送体の機能と制御の仕組みを解明(壽崎班)

Misawa, F., Ito, M., Nosaki, S., Nishida, H., Watanabe, M., Suzuki, T., Miura, K., Kawaguchi, M., and *Suzaki, T.

Nitrate transport via NRT2.1 mediates NIN-LIKE PROTEIN-dependent suppression of root nodulation in Lotus japonicus.

Plant Cell, 34, 1844-1862 (2022) Linkプレスリリース

窒素固定細菌との共生器官として機能する根粒の形成は、硝酸などの窒素栄養が土壌中に存在すると抑制されます。近年、この現象の制御に関わる因子が相次いで同定されていますが、窒素栄養と根粒共生を結びつける具体的な仕組みは未解明のままでした。今回の研究では、ミヤコグサの硝酸イオン輸送体LjNRT2.1が硝酸イオンの量に応じた根粒共生の抑制制御を仲介する機能を持つことを示しました。また、根粒形成の進行に伴ってLjNRT2.1の遺伝子発現の抑制により土壌からの硝酸イオンの取り込みが抑制される可能性が示唆されました。これらの発見によって、根粒共生を行うマメ科植物ならではの栄養獲得戦略の仕組みの一端が明らかになりました。


10. 栄養バランスに応じた植物の成長制御に重要な膜交通制御因子を発見(佐藤班)

Hasegawa, Y., Reyes, T.H., Uemura, T., Baral, A., Fujimaki, A., Luo, Y., Morita, Y., Saeki, Y., Maekawa, S., Yasuda, S., Mukuta, K., Fukao, Y., Tanaka, K., Nakano, A., Takagi, J., Bhalerao, R.P., Yamaguchi, J., and *Sato, T.

The TGN/EE SNARE protein SYP61 and the ubiquitin ligase ATL31 cooperatively regulate plant responses to carbon/nitrogen conditions in Arabidopsis.

Plant Cell, 34, 1354-1374 (2022) Linkプレスリリース

我々ヒトと同様に,栄養バランスの乱れは様々なかたちで植物の成長に悪影響を及ぼします。特に,代謝の根幹を担う糖(炭素源,C)と窒素(N)のバランスは重要で,C/Nバランスの乱れは発芽阻害や葉の老化促進,バイオマスの低下に繋がることが知られています。しかし,こうしたC/Nバランス異常への適応メカニズムはあまりわかっていません。本研究では,細胞内の膜交通制御因子であるSNAREタンパク質SYP61が植物のC/Nストレス耐性付与に重要な役割を果たすことを明らかにしました。さらに,SYP61の機能がユビキチン化修飾によって制御される可能性が示され,環境ストレスに応じた膜交通制御機構について新たな知見が得られました。


9. 植物の免疫応答を抑制する化合物を発見(吉田班・白須)

Ishihama, N., Choi, S-W., Noutoshi, Y., Saska, I., Asai, S., Takizawa, K., He., S.Y., Osada, H., and *Shirasu, K.

Oxicam-type nonsteroidal anti-inflammatory drugs inhibit NPR1-mediated salicylic acid pathway.

Nature Commun., 12, 7303 (2021) Linkプレスリリース

植物は、病原菌の感染行動を認識すると、生体防御反応を誘導することで病原菌の感染および増殖を防ぎます。ヒトの非ステロイド性抗炎症薬として知られるサリチル酸は、ヤナギの樹皮から抽出した解熱鎮痛剤の実体として2000年以上前から使用されてきましたが、植物体内においては、サリチル酸は内生のシグナル分子であり、転写補助因子NPR1を介して植物免疫応答を活性化する働きを持っています。今回新たに化合物ライブラリーから植物の免疫応答を抑制する化合物として、化学構造の類似した3種類のオキシカム系非ステロイド性抗炎症薬を同定しました。さらに、その1つが細胞内の酸化還元状態を酸化側に傾かせること、そしてサリチル酸で発現が上昇する遺伝子群を広範に抑制することを示し、サリチル酸のシグナル伝達機構の一端を明らかにしました。


8. 植物の免疫系が自身の虫害抵抗性を抑制する仕組みを解明(松下班・多田)

Nomoto, M., Skelly, M.J., Itaya, T., Mori, T., Suzuki, T., Matsushita, T., Tokizawa, M., Kuwata, K., Mori, H., Yamamoto, Y.Y., Higashiyama, T., Tsukagoshi, H., *Spoel, S.H., and *Tada, Y.

Suppression of MYC transcription activators by the immune cofactor NPR1 fine tunes plant immune responses.

Cell Rep., 37, 110125 (2021) Linkプレスリリース

植物は、ヒトなどの動物と同様に高度な免疫系を保有しており、植物が病原体を感知すると、免疫系を活性化することでその感染を防除します。一方、植物は虫害防御システムも備えており、昆虫が葉を摂食すると、植物は忌避物質などを生成することで虫害を防ぎます。この植物免疫系と虫害防御システムは拮抗的な関係にあり、免疫系を活性化している植物は、虫害被害を受けやすくなることが知られていますが、その仕組みは長年謎のままでした。本研究では、免疫系の活性化因子であるNPR1が、虫害防御システムの鍵転写因子であるMYCと結合することで、虫害抵抗性遺伝子の発現を抑制することを明らかにしました。つまり、NPR1は免疫系の活性化因子であると同時に、虫害防御システムの抑制因子として機能することが分かりました。


7. 土壌中の窒素量に応じて開花時期を調節する分子機構を解明(木下班・今泉)

Sanagi, M., Aoyama, S., Kubo, A., Lu, Y., Sato, Y., Ito, S., Abe, M., Mitsuda, N., Ohme-Takagi, M., Kiba, T., Nakagami, H., Rolland, F., Yamaguchi, J., *Imaizumi, T., and *Sato, T.

Low nitrogen conditions accelerate flowering by modulating the phosphorylation state of FLOWERING BHLH 4 in Arabidopsis.

Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 118, e2022942118 (2021) Linkプレスリリース

土壌中の窒素量が開花時期に影響を及ぼすという観察は農作物でも見受けられますがそのメカニズムは殆ど分かっていませんでした。本研究では、窒素量に応じてリン酸化の程度が顕著に異なる転写因子が開花制御に重要な因子であるFBH4であることを発見しました。さらに培養条件中の窒素量によりFBH4タンパク質のリン酸化修飾変化が起こり、タンパク質の細胞内局在を変化させることによって転写因子の活性を制御していることが示唆されました。その上FBH4タンパク質はSnRK1リン酸化酵素によりリン酸化される事、また窒素量に応じてSnRK1の活性が変わる事を見出しました。これらのメカニズムを介して窒素量の変化が開花時期を調節する事を明らかにしました。


6. 微量DNAから実施可能な全ゲノム長鎖DNAメチル化解析手法を開発(松下班・関)

Sakamoto, Y., Zaha, S., Nagasawa, S., Miyake, S., Kojima, Y., Suzuki, A., *Suzuki, Y., and *Seki, M.

Long-read whole-genome methylation patterning using enzymatic base conversion and nanopore sequencing.

Nucleic Acids Res., 49, e81 (2021) Linkプレスリリース

DNAメチル化は、遺伝子発現量の調節などに中心的な役割を果たしていて、細胞の分化や病気などに重要な役割を担っています。これまでのDNAメチル化解析手法は、短いDNAを解析する方法が主で、1本の長いDNAがどのようにメチル化されているのかは十分にわかっていませんでした。近年、ナノポアシークエンサーといった長いDNAを読み取ることのできるシークエンサーが登場し、長いDNAのメチル化の解析が可能となりましたが、多量のDNAを必要とするため実施できるサンプルが限られていました。今回、酵素を利用した塩基変換法とナノポアシークエンスを組み合わせて、通常のナノポアシークエンスの1/100程度のDNA量から実施できる全ゲノムDNAメチル化解析手法nanoEMを開発しました。さらに、nanoEMを微量の臨床サンプルにも適用できることを示しました。


5. 窒素栄養によって根粒形成遺伝子の発現が調節される仕組みを解明(壽崎班)

#Nishida, H., #Nosaki, S., Suzuki, T., Ito, M., Miyakawa, T., Nomoto, M., Tada, Y., Miura, K., Tanokura, M., Kawaguchi, M., and *Suzaki, T.

Different DNA-binding specificities of NLP and NIN transcription factors underlie nitrate-induced control of root nodulation.

Plant Cell, 33, 2340-2359 (2021) Linkプレスリリース

高濃度の窒素栄養が含まれる土壌では根粒形成が抑制されます。NLP転写因子がその制御に関わることが知られていましたが、根粒形成を促進または抑制する遺伝子が高窒素栄養環境では具体的にどのような仕組みによって発現調節を受けるのかはよく分かっていませんでした。今回の研究では、硝酸栄養存在下でNLPと根粒を作る働きを持つNIN転写因子が相互作用をすることで、NINの標的遺伝子の発現が抑制されることを示しました。また、NLPとNINのDNA結合特異性の違いがその制御の背景にあることも分かりました。これらの発見により、NLPをハブとした硝酸栄養に応じた遺伝子発現と根粒形成抑制の基本制御メカニズムが明らかになりました。


4. 硝酸イオン輸送体NRT2.1の活性をオンにする脱リン酸化酵素を発見(松林班)

Ohkubo, Y., Kuwata, K., and *Matsubayashi, Y.

A type 2C protein phosphatase activates high-affinity nitrate uptake by dephosphorylating NRT2.1.

Nature Plants, 7, 310-316 (2021) Linkプレスリリース

窒素は植物の成長に最も重要な栄養素のひとつであり、土壌中に存在する硝酸を主要な窒素源として根から吸収しています。この硝酸吸収の過程で主要な役割を担うのが、根の表面に存在する硝酸イオン輸送体NRT2.1です。NRT2.1の活性はリン酸化修飾によってオフとなることが知られていましたが、この過程の可逆性や制御に関わる酵素についてはよく分かっていませんでした。今回の研究では、NRT2.1を脱リン酸化して硝酸吸収活性をオンにする脱リン酸化酵素CEPHを発見し、この過程が可逆的であるとともに、窒素欠乏に応答した硝酸吸収制御の重要なスイッチング機構であることを示しました。植物は窒素が十分あるうちにNRT2.1を多めに合成して不活性型でストックしておき、窒素不足になった時にCEPHを使って活性化することで、変動する窒素栄養環境に巧みに適応していることが明らかになりました。


3. アンチセンス転写によって駆動されるエピゲノム制御機構の発見(佐瀬班・稲垣)

*Inagaki, S., Takahashi, M., Takashima, K., Oya, S., and Kakutani, T.

Chromatin-based mechanisms to coordinate convergent overlapping transcription.

Nature Plants, 7, 295-302 (2021) Link, プレスリリース

生物のゲノム上ではタンパク質をコードする遺伝子のみならず、非コード転写も頻繁に起きており、ゲノム上では入り組んだ転写が起きていることが分かってきていますが、この入り組んだ転写を調節する仕組みはほとんど理解されていません。今回の研究では、ゲノムが小さく、遺伝子が密に並んでいるシロイヌナズナにおいて、数百もの遺伝子領域において逆向きにオーバーラップする転写(アンチセンス転写)が起きていること、またこのアンチセンス転写が起きている領域の転写を調節する新たなエピゲノム制御機構を見出しました。またこの制御は、植物が冬の低温を記憶し春に開花する仕組みに関与しています。これらの結果は、ゲノム上での近隣遺伝子との関係性がエピゲノムを介して遺伝子発現や環境への適応に果たす役割を示唆しています。


2. 植物の養分吸収、気孔開口や光合成に多大な影響を与える重要因子の発見(木下班)

Zhang, M., Wang, Y., Chen, X., Xu, F., Ding, M., Ye, W., Kawai, Y., Toda, Y., Hayashi, Y., Suzuki, T., Zeng, H., Xiao, L., Xiao, X., Xu, J., Guo, S., Yan, F., Shen, Q., Xu, G., *Kinoshita, T., and *Zhu, Y.

Plasma membrane H+-ATPase overexpression increases rice yield via simultaneous enhancement of nutrient uptake and photosynthesis.

Nature Commun., 12, 735 (2021) Link, プレスリリース

植物は、根から窒素などの養分を吸収すると同時に、葉の気孔を開き、CO2を取り込んで光合成を行い、成長しています。本研究では、イネの養分吸収と気孔開口について解析を行い、細胞膜プロトンポンプと呼ばれる酵素が共通して重要な役割を果たすことが明らかとなりました。そこで、プロトンポンプ過剰発現イネの詳細な解析を行ったところ、野生株と比べ、根での養分吸収、気孔開口、光合成活性が20%以上増加し、隔離水田での栽培試験において収量が30%以上増加することが明らかとなりました。さらに過剰発現イネでは窒素の施肥量を半分に減らしても、通常より収量が多いことを見出しました。本研究の成果は、今後、食糧増産や環境問題に大きく関わるCO2や肥料の削減に貢献することが期待されます。


1. 環境変化に応じて遺伝子が細胞核内の空間配置を変化させる仕組みを解明(杉本班・松永)

Sakamoto, Y., Sato, M., Sato, Y., Harada, A., Suzuki, T., Goto, C., Tamura, K., Toyooka, K., Kimura, H., Ohkawa, Y., Hara-Nishimura, I., Takagi, S., and *Matsunaga, S.

Subnuclear gene positioning through lamina association affects copper tolerance.

Nature Commun., 11, 5914 (2020) Link, プレスリリース

遺伝子は3次元的にDNAがパッケージングされた細胞核内で、空間に配置されています。そのため、遺伝子が細胞核内の3次元的配置を変化させて、遺伝子発現のON/OFFを調節することが知られていましたが、その詳細なメカニズムは不明なままでした。細胞核内の遺伝子の3次元的配置を制御するタンパク質として、核膜裏打ちタンパク質CRWNを同定しました。また、蛍光イメージング、クロマチン挿入標識(CHIL)、蛍光in situ hybridization (FISH)を用いることで、外部環境の変化に応じて遺伝子の空間配置が変化することが明らかになりました。銅環境の変化に合わせて銅関連遺伝子の空間配置が変化し、銅関連遺伝子がCRWNに結合することで遺伝子の発現がONになることがわかりました。

松下班・論文発表

Hosokawa, C., Yagi, H., Segami, S., Nagano, A.J., Koumoto, Y., Tamura, K., Oka, Y., Matsushita, T., and *Shimada, T.

The Arabidopsis katamari2 mutant exhibits a hypersensitive seedling arrest response at the phase transition from heterotrophic to autotrophic growth.

Plant Cell Physiol., 65, 350–361 (2024) Link


メッセンジャーRNAの5’末端を高い特異性で検出するTSS-seq2法を開発

*Seki, M., Kuze, Y., Zhang, X., Kurotani, K.-i., Notaguchi, M., Nishio, H., Kudoh, H., Suzaki, T., Yoshida, S., Sugano, S., Matsushita, T., and *Suzuki, Y.

An improved method for the highly specific detection of transcription start sites.

Nucleic Acids Res., 52, e7 (2024) Linkプレスリリース

ゲノムから遺伝子が読み取られるDNA上での位置である転写開始点(TSS)を網羅的に決定するTSS-seq2法を開発しました。さらに、領域内の吉田班、野田口班、壽崎班、西尾班との共同研究により、コシオガマ、ベンサミアナタバコ、ミヤコグサ、ハクサンハタザオの4種類の植物について、TSS情報の収集を行いました。TSSの決定は、RNAの正確な構造や、TSSの近辺に存在して遺伝子の機能を調節する領域であるプロモーターを同定するために重要です。正確性の高いTSS検出法は、必要なRNAの量が多く、プロトコルが複雑であるなど、簡単には実施できない手法が主でした。今回、開発したTSS-seq2は、比較的簡単なプロトコルで、他の既存の方法よりも特異的にTSSを検出でき、5ナノグラムと少量のRNAからでも実施できます。TSS-seq2により、様々な生物種や組織でのmRNAの正確な構造の同定や遺伝子の制御の研究、特に、希少な細胞種や微小な組織などの少量のサンプルの解析への応用が期待されます。また、今回収集した植物のTSS情報は、これらの植物種の研究の基盤データとなることが期待されます。


*Sekine, S., Ehara, H., Kujirai, Y., and *Kurumizaka, H.

Structural perspectives on transcription in chromatin.

Trends Cell Biol., 34, 211-224 (2024) Link


Takeda, T., Akihiro Ezoe, A., and *Hanada, K.

Expression profiles in knock-down transgenic plants of high and low diversified duplicates in Arabidopsis thaliana.

Genes Genet. Systems., 98, 283-286 (2023) Link


Murayama, Y., Ehara, H., Aoki, M., Goto, M., Yokoyama, T., and *Sekine, SI.

Structural basis of the transcription termination factor Rho engagement with transcribing RNA polymerase from Thermus thermophilus.

Sci. Adv., 9, eade7093 (2023) Link


Takeda, T., Shirai, K., Kim, Y.W., Higuchi-Takeuchi, M., Shimizu, M., Kondo, T., Ushijima, T., Matsushita, T., Shinozaki, K., and *Hanada, K.

A de novo gene originating from the mitochondria controls floral transition in Arabidopsis thaliana.

Plant Mol. Biol., 111, 189-203 (2023) Link


Moriya, K.C., Shirakawa, M., Loue-Manifel, J., Matsuda, Y., Lu, Y.T., Tamura, K., Oka, Y., Matsushita, T., Hara-Nishimura, I., Ingram, G., Nishihama, R., Goodrich, J., Kohchi, T., and *Shimada, T.

Stomatal regulators are co-opted for seta development in the astomatous liverwort Marchantia polymorpha.

Nat. Plants, 9, 302–314 (2023) Link


Kobayashi, H., Murakami, K., Sugano, S.S., Tamura, K., Oka, Y., Matsushita, T., and *Shimada, T.

Comprehensive analysis of peptide-coding genes and initial characterization of an LRR- only microprotein in Marchantia polymorpha.

Front. Plant Sci., 3, 1051017 (2023) Link


Zhang, X., Nomoto, M., Garcia-León, M., Takahashi, N., Kato, M., Yura, K., Umeda, M., Rubio, V., Tada, Y., Furumoto, T., Aoyama, T., and *Tsuge, T.

CFI 25 subunit of cleavage factor I is important for maintaining the diversity of 3ʹ UTR lengths in Arabidopsis thaliana (L.) Heynh.

Plant Cell Physiol., 63, 369-383 (2022) Link


Hirano, R., Ehara, H., Kujirai, T., Uejima, T., Takizawa, Y., *Sekine, SI., and *Kurumizaka, H.

Structural basis of RNA polymerase II transcription on the chromatosome containing linker histone H1.

Nat. Commun., 13, 7287 (2022) Link


Ehara, H., Kujirai, T., Shirouzu, M., *Kurumizaka, H., and *Sekine, SI.

Structural basis of nucleosome disassembly and reassembly by RNAPII elongation complex with FACT.

Science, 377, eabp9466 (2022) Link


Wang, Z., Orosa-Puente, B., Nomoto, M., Grey, H., Potuschak, T., Matsuura, T., Mori, I.C., Tada, Y., Genschik, P., and *Spoel, S.H.

Proteasome-associated ubiquitin ligase relays target plant hormone-specific transcriptional activators.

Sci. Adv., 8, eabn4466 (2022) Link


Zaha, S., Sakamoto, Y., Nagasawa, S., Sugano, S., Suzuki, A., *Suzuki, Y., and *Seki, M.

Whole-genome methylation analysis of APOBEC enzyme-converted DNA (~5 kb) by Nanopore sequencing.

Bio-protocol, 12, e4345 (2022) Link


植物は雨に打たれると免疫を活性化する仕組みを解明

Matsumura, M., *Nomoto, M., Itaya, T., Aratani, Y., Iwamoto, M., Matsuura, T., Hayashi, Y., Mori, T., Skell, M.J., Yamamoto, Y.Y., Kinoshita, T., Mori, I.C., Suzuki, T., Betsuyaku, S., Spoel, S.H., Toyota, M., and *Tada, Y.

Mechanosensory trichome cells evoke a mechanical stimuli–induced immune response in Arabidopsis thaliana.

Nature Commun., 13, 1216 (2022) Linkプレスリリース

植物はヒトなどの多細胞生物と同様に免疫系を持っており、病原体を感知すると、免疫関連の遺伝子発現を介して感染を阻害します。一方で、植物に感染する病原体の多くは、雨によって媒介されます。雨滴の中には細菌、糸状菌やウイルスといった病原体が含まれており、それらが病害発生の直接的な原因になりうることも知られています。したがって、植物にとって雨は危険因子としての側面もありますが、植物が雨に対してどのように応答するかは未解明でした。本研究では、雨は葉の表面に存在する毛状の細胞(トライコーム)によって感知されると、トライコーム周辺の組織にカルシウムウェーブを誘導し、病原体に対する免疫を活性化し、その感染を防除することを明らかにしました。


植物の免疫系が自身の虫害抵抗性を抑制する仕組みを解明

Nomoto, M., Skelly, M.J., Itaya, T., Mori, T., Suzuki, T., Matsushita, T., Tokizawa, M., Kuwata, K., Mori, H., Yamamoto, Y.Y., Higashiyama, T., Tsukagoshi, H., *Spoel, S.H., and *Tada, Y.

Suppression of MYC transcription activators by the immune cofactor NPR1 fine tunes plant immune responses.

Cell Rep., 37, 110125 (2021) Linkプレスリリース

植物は、ヒトなどの動物と同様に高度な免疫系を保有しており、植物が病原体を感知すると、免疫系を活性化することでその感染を防除します。一方、植物は虫害防御システムも備えており、昆虫が葉を摂食すると、植物は忌避物質などを生成することで虫害を防ぎます。この植物免疫系と虫害防御システムは拮抗的な関係にあり、免疫系を活性化している植物は、虫害被害を受けやすくなることが知られていますが、その仕組みは長年謎のままでした。本研究では、免疫系の活性化因子であるNPR1が、虫害防御システムの鍵転写因子であるMYCと結合することで、虫害抵抗性遺伝子の発現を抑制することを明らかにしました。つまり、NPR1は免疫系の活性化因子であると同時に、虫害防御システムの抑制因子として機能することが分かりました。


微量DNAから実施可能な全ゲノム長鎖DNAメチル化解析手法を開発

Sakamoto, Y., Zaha, S., Nagasawa, S., Miyake, S., Kojima, Y., Suzuki, A., *Suzuki, Y., and *Seki, M.

Long-read whole-genome methylation patterning using enzymatic base conversion and nanopore sequencing.

Nucleic Acids Res., 49, e81 (2021) Linkプレスリリース

DNAメチル化は、遺伝子発現量の調節などに中心的な役割を果たしていて、細胞の分化や病気などに重要な役割を担っています。これまでのDNAメチル化解析手法は、短いDNAを解析する方法が主で、1本の長いDNAがどのようにメチル化されているのかは十分にわかっていませんでした。近年、ナノポアシークエンサーといった長いDNAを読み取ることのできるシークエンサーが登場し、長いDNAのメチル化の解析が可能となりましたが、多量のDNAを必要とするため実施できるサンプルが限られていました。今回、酵素を利用した塩基変換法とナノポアシークエンスを組み合わせて、通常のナノポアシークエンスの1/100程度のDNA量から実施できる全ゲノムDNAメチル化解析手法nanoEMを開発しました。さらに、nanoEMを微量の臨床サンプルにも適用できることを示しました。


Tokizawa, M., Enomoto, T., Ito, H., *Wu, L., Kobayashi, Y., Mora-Macías, J., Armenta-Medina, D., Iuchi, S., Kobayashi, M., Nomoto, M., Tada, Y., Fujita, M., Shinozaki, K., Yamamoto, Y.Y., *Kochian, L.V., and *Koyama, H.

High affinity promoter binding of STOP1 is essential for early expression of novel aluminum-induced resistance genes GDH1 and GDH2 in Arabidopsis.

J. Exp. Bot.,72, 2769-2789 (2021) Link


Shirai, K., Sato, M.P., Nishi, R., Seki, M., Suzuki, Y., and *Hanada, K.

Positive selective sweeps of epigenetic mutations regulating specialized metabolites in plants.

Genome Res., 31, 1060-1068 (2021) Linkプレスリリース


Yagi, H., Nagano, A.J., Kim, J., Tamura, K., Mochizuki, N., Nagatani, A., Matsushita, T., and *Shimada, T.

Fluorescent protein-based imaging and tissue-specific RNA-seq analysis of Arabidopsis hydathodes.

J. Exp. Bot., 72, 1260-1270 (2021) Link

松林班・論文発表

植物も食いだめしないと変動窒素環境下では生きていけない!

Kobayashi, R., Ohkubo, Y., Izumi, M., Ota, R., Yamada, K., Hayashi, Y., Yamashita, Y., Noda, S., Ogawa-Ohnishi, M., and *Matsubayashi, Y.

Integration of shoot-derived polypeptide signals by root TGA transcription factors is essential for survival under fluctuating nitrogen environments.

Nature Commun., 15, 6903 (2024) Linkプレスリリース

窒素は植物の成長に最も重要な栄養素のひとつで、主に硝酸イオンを根から吸収していますが、その吸収は、葉からの篩管移行性ペプチドシグナルによって調節されています。本研究では、植物体の窒素需要を根に知らせるシグナルとして、既に報告していた空腹シグナルCEPD1/2/CEPDL2に加えて、満腹シグナルとしてGrxSファミリーが存在することを発見しました。さらに本研究では、根に移行したCEPD1/2/CEPDL2とGrxSが、互いに競合的に転写因子TGA1およびTGA4に直接結合することを見出しました。TGA1/4に対して空腹シグナルCEPD1/2/CEPDL2が結合すると、コアクチベーターとして窒素吸収遺伝子群の発現を促進し、満腹シグナルGrxSはコリプレッサーのTOPLESSと複合体を形成してTGA1/4に結合するため、窒素吸収遺伝子群の発現を抑制します。転写因子TGA1/4を欠損した植物は、葉からの空腹シグナルを根が受け取ることができず、需要の高まりに応じた窒素吸収促進ができないため、窒素欠乏が周期的に繰り返されるような変動窒素環境下では、葉が小さくなるなど正常に生育できません。すなわち、植物も空腹に応じて食いだめしないと変動窒素環境下では生きていけないのです。これらの結果は、刻々と変動する土壌窒素栄養環境への植物の適応のしくみを理解する上で重要な手がかりとなり、今後の農業分野への応用も期待されます。

植物免疫の活性化に関わるタンパク質分解酵素を発見

Matsui, S., Noda, S., Kuwata, K., Nomoto, M., Tada, Y., Shinohara, H., and *Matsubayashi, Y.

Arabidopsis SBT5.2 and SBT1.7 subtilases mediate C-terminal cleavage of flg22 epitope from bacterial flagellin.

Nature Commun., 15, 3762 (2024) Linkプレスリリース

植物は、病原細菌が移動する上で重要な器官であるべん毛の構成タンパク質であるフラジェリンを認識して免疫応答を開始します。このとき、フラジェリンはタンパク質全体が認識されるわけではなく、その中の一部分のペプチドが認識されることで、免疫が誘導されます。この免疫誘導ペプチドは、植物のプロテアーゼによってフラジェリンが断片化されることで生じると考えられてきましたが、実際にフラジェリンがどのように断片化されるのか、また植物に多数存在するプロテアーゼのうちどれがフラジェリンの断片化に関わるのかについては分かっていませんでした。本研究では、フラジェリンが植物の酵素によってどのように断片化されるかを明らかにし、さらに、植物のプロテアーゼSBT5.2とSBT1.7が、フラジェリンを断片化して免疫誘導ペプチドを切り出す過程に関わることを突き止めました。これらの結果は、植物が病原細菌を認識するしくみ理解する上での重要な手掛かりとなり、病気に強い植物の作出などの農業的応用につながることも期待されます。


Okawa, R., Hayashi, Y., Yamashita, Y., Matsubayashi, Y., and *Ogawa-Ohnishi, M.

Arabinogalactan protein polysaccharide chains are required for normal biogenesis of plasmodesmata.

Plant J., 113, 493-503 (2023) Link

植物のストレス応答と成長のトレードオフを制御するペプチドホルモンの発見

Ogawa-Ohnishi, M., Yamashita, T., Kakita, M., Nakayama, T., Ohkubo, Y., Hayashi, Y., Yamashita, Y., Nomura, T., Noda, S., Shinohara, H., and *Matsubayashi, Y.

Peptide ligand-mediated trade-off between plant growth and stress response.

Science, 378, 175-180 (2022) Linkプレスリリース

植物は、自然環境下における病害・温度・塩などの様々なストレスに適応するために、成長に使うエネルギーの一部を状況に応じてストレス応答に回すしくみを持っており、「成長とストレス応答のトレードオフ」と呼ばれます。本研究では、ペプチドホルモンPSYとその受容体PSYRが、細胞間シグナリングを介してストレス応答のONとOFFを切り替えていることを発見しました。非常に興味深いことに、受容体PSYRはリガンドであるPSYが結合していないときに活性化してストレス応答に関連する多数の転写因子群の発現を誘導し、逆にPSYの結合によって不活性化されます。普段は全身の細胞で発現しているPSYのはたらきにより、ストレス応答は抑制されていますが、この通常とは逆の活性化メカニズムによって、植物は巧みなストレス応答能力を発揮します。すなわち、組織の一部が環境ストレスによってダメージを受けて代謝不全になるとPSYが生産されなくなり、局所的にリガンド濃度が低下します。その結果、ダメージ部位の周辺部の細胞においてのみPSYRが活性化してストレス応答が誘導され、効率よくダメージの拡大を防ぐことができます。PSYとPSYRのはたらきによって、植物は不均一な環境ストレスに巧みに適応しています。


硝酸イオン輸送体NRT2.1の活性をオンにする脱リン酸化酵素を発見

Ohkubo, Y., Kuwata, K., and *Matsubayashi, Y.

A type 2C protein phosphatase activates high-affinity nitrate uptake by dephosphorylating NRT2.1.

Nature Plants, 7, 310-316 (2021) Linkプレスリリース

窒素は植物の成長に最も重要な栄養素のひとつであり、土壌中に存在する硝酸を主要な窒素源として根から吸収しています。この硝酸吸収の過程で主要な役割を担うのが、根の表面に存在する硝酸イオン輸送体NRT2.1です。NRT2.1の活性はリン酸化修飾によってオフとなることが知られていましたが、この過程の可逆性や制御に関わる酵素についてはよく分かっていませんでした。今回の研究では、NRT2.1を脱リン酸化して硝酸吸収活性をオンにする脱リン酸化酵素CEPHを発見し、この過程が可逆的であるとともに、窒素欠乏に応答した硝酸吸収制御の重要なスイッチング機構であることを示しました。植物は窒素が十分あるうちにNRT2.1を多めに合成して不活性型でストックしておき、窒素不足になった時にCEPHを使って活性化することで、変動する窒素栄養環境に巧みに適応していることが明らかになりました。

壽崎班・論文発表

Qiao, L., *Suzaki, T., and *Liang, P.

Zinc sensing in nodules regulates symbiotic nitrogen fixation.

Nature Plants, 10, 1153-1154 (2024) Link


体内の窒素状態に応じて植物が根粒菌に鉄を供給する仕組みを解明

Ito, M., Tajima, Y., Ogawa-Ohnishi, M., Nishida, H., Nosaki, S., Noda, M., Sotta, N., Kawade, K., Kamiya, T., Fujiwara, T., Matsubayashi, Y., and *Suzaki, T.

IMA peptides regulate root nodulation and nitrogen homeostasis by providing iron according to internal nitrogen status.

Nature Commun., 15, 733 (2024) Linkプレスリリース


マメ科植物の根に形成される根粒の中で、根粒菌は空中窒素をアンモニアに変換する窒素固定を行います。窒素固定反応を触媒する酵素として知られるニトロゲナーゼが働くためには鉄が必要です。しかしながら、どこから、どのように鉄が根粒へと運ばれて窒素固定のために使われるのか、その仕組みは不明でした。本研究では、ミヤコグサの根粒形成過程における体内の窒素状態に応じたトランスクリプトーム解析を行い、IRON MAN (IMA)ペプチドを同定しました。IMAペプチドをコードする遺伝子は根粒菌の感染によって全身的(地上部と根)に発現し、根粒に鉄を集める働きを持つことが分かりました。さらに、シロイヌナズナにおけるIMAペプチドの機能解析によって、ミヤコグサとシロイヌナズナのいずれにも、IMAペプチドが植物体内の窒素量の増加に応じて鉄を得ることで窒素恒常性を維持し、植物の成長を制御する仕組みが存在することを発見しました。これらの知見によって、窒素と鉄のバランス調節を介した植物の環境適応および成長制御の仕組みの一端が明らかになりました。


Qiao, L., Lin, J., Suzaki, T., and *Liang, P.

Staying hungry: a roadmap to harnessing central regulators of symbiotic nitrogen fixation under fluctuating nitrogen availability.

aBIOTECH, 5, 107-113 (2023) Link


Abdellatif, I.M.Y., Yuan, S., Yoshihara, S., Suzaki, T., Ezura, H., and *Miura, K.

Stimulation of tomato drought tolerance by PHYTOCHROME A and B1B2 mutations.

Int. J. Mol. Sci., 24, 1560 (2023) Link


*Suzaki, T.

Root nodule organogenesis: a unique lateral organogenesis in legumes.

Breed. Sci., 73, 70-75 (2023) Link


*Nishida, H., and *Suzaki, T.

Lotus japonicus NLP1 and NLP4 transcription factors have different roles in the regulation of nitrate transporter family gene expression.

Genes Genet. Syst., 97, 257-260 (2022) Link


根粒共生における硝酸イオン輸送体の機能と制御の仕組みを解明

Misawa, F., Ito, M., Nosaki, S., Nishida, H., Watanabe, M., Suzuki, T., Miura, K., Kawaguchi, M., and *Suzaki, T.

Nitrate transport via NRT2.1 mediates NIN-LIKE PROTEIN-dependent suppression of root nodulation in Lotus japonicus.

Plant Cell, 34, 1844-1862 (2022) Linkプレスリリース

窒素固定細菌との共生器官として機能する根粒の形成は、硝酸などの窒素栄養が土壌中に存在すると抑制されます。近年、この現象の制御に関わる因子が相次いで同定されていますが、窒素栄養と根粒共生を結びつける具体的な仕組みは未解明のままでした。今回の研究では、ミヤコグサの硝酸イオン輸送体LjNRT2.1が硝酸イオンの量に応じた根粒共生の抑制制御を仲介する機能を持つことを示しました。また、根粒形成の進行に伴ってLjNRT2.1の遺伝子発現の抑制により土壌からの硝酸イオンの取り込みが抑制される可能性が示唆されました。これらの発見によって、根粒共生を行うマメ科植物ならではの栄養獲得戦略の仕組みの一端が明らかになりました。


Abdellatif, I.M.Y., Yuan, S., Na, R., Yoshihara, S., Hamada, H., Suzaki, T., Ezura, H., and *Miura, K.

Functional characterization of tomato phytochrome A and B1B2 mutants in response to heat stress.

Int. J. Mol. Sci., 23, 1681 (2022) Link


*Suzaki, T., *Valkov, V.T., and *Chiurazzi, M.

Editorial: Nutrient dependent signaling pathways controlling the symbiotic nitrogen fixation process.

Front. Plant Sci., 12, 744450 (2021) Link


窒素栄養によって根粒形成遺伝子の発現が調節される仕組みを解明

Nishida, H., Nosaki, S., Suzuki, T., Ito, M., Miyakawa, T., Nomoto, M., Tada, Y., Miura, K., Tanokura, M., Kawaguchi, M., and *Suzaki, T.

Different DNA-binding specificities of NLP and NIN transcription factors underlie nitrate-induced control of root nodulation.

Plant Cell, 33, 2340-2359 (2021) Linkプレスリリース

高濃度の窒素栄養が含まれる土壌では根粒形成が抑制されます。NLP転写因子がその制御に関わることが知られていましたが、根粒形成を促進または抑制する遺伝子が高窒素栄養環境では具体的にどのような仕組みによって発現調節を受けるのかはよく分かっていませんでした。今回の研究では、硝酸栄養存在下でNLPと根粒を作る働きを持つNIN転写因子が相互作用をすることで、NINの標的遺伝子の発現が抑制されることを示しました。また、NLPとNINのDNA結合特異性の違いがその制御の背景にあることも分かりました。これらの発見により、NLPをハブとした硝酸栄養に応じた遺伝子発現と根粒形成抑制の基本制御メカニズムが明らかになりました。

吉田班・論文発表

病原細菌が植物の感染感知能力を無効化する機構の解明

Goto, Y., *Kadota, Y., Mbengue, M., Lewis, J.D., Matsui, H., Maki, N., Ngou, B.P.M., Sklenar, J., Derbyshire, P., Shibata, A., Ichihashi, Y., Guttman, D.S., Nakagami, H., Suzuki, T., Menke, F.L.H., Robatzek, S., Desveaux, D., Zipfel, C., and *Shirasu, K.

The leucine-rich repeat receptor kinase QSK1 regulates PRR-RBOHD complexes targeted by the bacterial effector HopF2Pto.

Plant Cell, 36, 4932-4951 (2024) Linkプレスリリース

植物は病原菌由来の物質を細胞膜局在型の免疫受容体によって認識し、病原菌の侵入を感知します。免疫受容体が過剰に反応すると、過剰な免疫反応や成長抑制を引き起こすため、厳密な制御が必要です。しかし、免疫受容体の制御機構には未解明な部分が多いのが現状です。一方、病原細菌は感染の過程で、病原性因子と呼ばれるタンパク質を植物細胞内に注入して、免疫受容体を介した防御応答を抑制します。高病原性の細菌の病原性因子HopF2Ptoは免疫受容体により誘導される防御応答を強く抑制する活性を持つことが知られていましたが、その分子機構は未解明でした。本研究では、植物の細胞膜局在型の免疫受容体と複合体を形成する因子を探索し、受容体様リン酸化酵素QSK1を発見しました。このQSK1は免疫受容体の量を減少させる機能を持っていました。さらに興味深いことに、HopF2PtoはQSK1と結合すると植物細胞内で安定化し、免疫受容体の量を劇的に減少させました。また、HopF2Ptoはさまざまな免疫受容体の発現とともに、免疫反応を増強する分子であるファイトサイトカイン、およびファイトサイトカイン受容体の発現も抑制しました。このように、HopF2Ptoは植物免疫の機能を低下させる因子QSK1を用いて植物の感染感知能力を無効化していることが明らかになりました。


Masuda, S., Gan, P., Kiguchi, Y., Anda, M., Sasaki, K., Shibata, A., Iwasaki, W., Suda, W., and *Shirasu, K.

Uncovering microbiomes of the rice phyllosphere using long-read metagenomic sequencing.

Commun. Biol., 7, 357 (2024) Linkプレスリリース


Kumakura, N., Singkaravanit-Ogawa, S., Gan, P., Tsushima, A., Ishihama, N., Watanabe, S., Seo, M., Iwasaki, S., Narusaka, M., Narusaka, Y., Takano, Y., and *Shirasu, K.

Guanosine-specific single-stranded ribonuclease effectors of a phytopathogenic fungus potentiate host immune responses.

New Phytol., 242, 170-191 (2024) Link


植物免疫受容体の進化の軌跡を解明 -発生・成長を担う受容体と共通の祖先から派生-

Ngou, B.P.M., Wyler, M., Schmid, M.W., *Kadota, Y., and *Shirasu, K.

Evolutionary trajectory of pattern recognition receptors in plants.

Nature Commun., 15, 308 (2024) Linkプレスリリース

植物が陸上に進出し、多様な微生物と遭遇する中で、どのようにして病原微生物を認識する能力を獲得したのか、植物免疫の起源に関しては未解明でした。本研究では、公開されている350種の植物ゲノム情報から、細胞膜に局在する受容体をコードする遺伝子を約21万個抽出して比較解析を行いました。そして、病原体の侵入を認識する免疫受容体群(ロイシンリッチリピート(LRR)受容体型リン酸化酵素(LRR-RLKs)、およびロイシンリッチリピート受容体様タンパク質(LRR-RLPs))の進化の軌跡を調べました。その結果、LRR-RLPs型の免疫受容体群は発生・成長の制御を担う受容体群と共通の祖先から派生し、進化の過程でそれぞれの機能に必要なモジュールを獲得することで異なる受容体へと進化したことが分かりました。これにより、植物免疫を理解する上で重要な疑問の一つであった植物免疫の起源について、本研究は分子レベルでの解答を与えることができました。さらに免疫型LRR-RLPsと発生・成長型LRR-RLK-Xbsの進化と、それぞれが進化させた機能的モジュールが明らかになりました。本研究によって、植物のゲノム情報から、免疫受容体として働く遺伝子と発生・成長に関わる遺伝子を簡便かつ正確に予測することができるようになりました。


Yonehara, K., Kumakura, N., Motoyama, T., Ishihama, N., Dallery, J.-F., O'Connell, R., and *Shirasu, K.

Efficient multiple gene knockout in Colletotrichum higginsianum via CRISPR/Cas9 ribonucleoprotein and URA3-based marker recycling.

Mol. Plant Pathol., 24, 1451-1464. (2023) Link


*Asai, S., Cevik, V., *Jones, J.D.G., and *Shirasu, K.

Cell-specific RNA profiling reveals host genes expressed in Arabidopsis cells haustoriated by downy mildew.

Plant Physiol., 193, 259-270. (2023) Link


*Koshimizu, S., Masuda, S., Shibata, A., Ishii, T., Shirasu, K., Hoshino, A., and Arita, M.

Genome and transcriptome analyses reveal genes involved in the formation of fine ridges on petal epidermal cells in Hibiscus trionum.

DNA Res., 30, dsad019. (2023) Link


Nakayasu, M., Takamatsu, K., Kanai, K., Masuda, S., Yamazaki, S., Aoki, Y., Shibata, A., Suda, W., Shirasu, K., Yazaki, K., and *Sugiyama, A.

Tomato root-associated Sphingobium harbors genes for catabolizing toxic steroidal glycoalkaloids.

mBio, 14, e00599-00523. (2023) Link


Chen, X., Fang, D., Xu, Y., Duan, K., Yoshida, S., Yang, S., Sahu, S.K., Fu, H., Guang, X., Liu, M., Wu, C., Liu, Y., Mu, W., Chen, Y., Fan, Y., Wang, F., Peng, S., Shi, D., Wang, Y., Yu, R., Zhang, W., Bai, Y., Liu, Z.-J., Yan, Q., Liu, X., Xu, X., Yang, H., Wu, J., Graham, S.W., and *Liu, H.

Balanophora genomes display massively convergent evolution with other extreme holoparasites and provide novel insights into parasite–host interactions.

Nature Plants, 9, 1627-1642. (2023) Link


Saul, F., Scharmann, M., Wakatake, T., Rajaraman, S., Marques, A., Freund, M., Bringmann, G., Channon, L., Becker, D., Carroll, E., Low, Y.W., Lindqvist, C., Gilbert, K.J., Renner, T., Masuda, S., Richter, M., Vogg, G., Shirasu, K., Michael, T.P., Hedrich, R., *Albert, V.A., and *Fukushima, K.

Subgenome dominance shapes novel gene evolution in the decaploid pitcher plant Nepenthes gracilis.

Nature Plants, 9, 2000–2015 (2023) Link


Goto, Y., Maki, N., Sklenar, J., Derbyshire, P., Menke, F.L.H., Zipfel, C., *Kadota, Y., and *Shirasu, K.

The phagocytosis oxidase/Bem1p domain-containing protein PB1CP negatively regulates the NADPH oxidase RBOHD in plant immunity.

New Phytol., 241, 1763–1779 (2024) Link


Cui, S., Inaba, S., *Suzaki, T., and *Yoshida, S.

Developing for nutrient uptake: Induced organogenesis in parasitic plants and root nodule symbiosis.

Curr. Opin. Plant Biol., 76, 102473 (2023) Link


Kee, Y.J., Ogawa, S., Ichihashi, Y., Shirasu, K., and *Yoshida, S.

Strigolactones in rhizosphere communication: Multiple molecules with diverse functions.

Plant Cell Physiol., 64, 955–966 (2023) Link


Ishihama, N., Laohavisit, A., Takizawa, K., and *Shirasu, K.

Apoplastic expression of CARD1-ecto domain in Nicotiana benthamiana and purification from the apoplastic fluids.

Bio-protocol, 12, e4387 (2022) Link


Aoki, N., Cui, S., Ito, C., Kumaishi, K., Kobori, S., Ichihashi, Y., and *Yoshida, S.

Phenolic signals for prehaustorium formation in Striga hermonthica.

Front. Plant Sci., 13, 1077996 (2022) Link


Aoki, N., Cui, S., and *Yoshida, S.

Cytokinins induce prehaustoria coordinately with quinone signals in the parasitic plant Striga hermonthica.

Plant Cell Physiol., 63, 1446-1456 (2022) Link


*Ogawa, S., and *Shirasu, K.

Strigol induces germination of the facultative parasitic plant Phtheirospermum japonicum in the absence of nitrate ions.

Plant Signal. Behav., 17, 2114647 (2022) Link


寄生植物が宿主に接近するメカニズムの解明

Ogawa, S., Cui, S., White, A. R. F., Nelson, D.C., Yoshida, Y., and *Shirasu, K.

Strigolactones are chemoattractants for host tropism in Orobanchaceae parasitic plants.

Nature Commun., 13, 4653 (2022) Linkプレスリリース

根寄生植物は、①宿主となる植物が近くにいることを認識し発芽する、②自身の根を宿主の根に向けて伸ばす、③根を連結させ栄養や水を奪う、という3段階を経て寄生を完了させます。このうち、①と③については研究が進められてきましたが、②の屈性と呼ばれる現象のメカニズムについてはほとんど明らかになっていませんでした。今回、国際共同研究グループは、ハマウツボ科寄生植物のコシオガマが宿主の根から放出される根圏情報物質のストリゴラクトン(SL)に対して屈性を示すことを発見しました。この屈性はアフリカなどで農業被害を引き起こしている同じハマウツボ科のストライガでも見られる一方で、非寄生植物では見られないことから、ハマウツボ科寄生植物に特有の戦略である可能性があります。また、SLへの屈性には植物ホルモンであるオーキシンの輸送が関与すること、屈性はアンモニウムイオンの存在下では抑制されることを発見し、さらにSLを認識して屈性を引き起こす受容体を同定しました。


Kokla, A., Leso, M., Zhang, X., Simura, J., Serivichyaswat, P.T., Cui, S., Ljung, K., Yoshida, S., and *Melnyk, C.W.

Nitrogen represses haustoria formation through abscisic acid in the parasitic plant Phtheirospermum japonicum.

Nature Commun., 13, 2976 (2022) Link


Kato, H., Nemoto, K., Shimizu, M., Abe, A., Asai, S., Ishihama, N., Matsuoka, S., Daimon, T., Ojika, M., Kawakita, K., Onai, K., Shirasu, K., Yoshida, M., Ishiura, M., Takemoto, D., Takano, Y., and *Terauchi, R.

Recognition of pathogen-derived sphingolipids in Arabidopsis.

Science, 376, 857-860 (2022) Linkプレスリリース


植物の免疫応答を抑制する化合物を発見

Ishihama, N., Choi, S-W., Noutoshi, Y., Saska, I., Asai, S., Takizawa, K., He., S.Y., Osada, H., and *Shirasu, K.

Oxicam-type nonsteroidal anti-inflammatory drugs inhibit NPR1-mediated salicylic acid pathway.

Nature Commun., 12, 7303 (2021) Linkプレスリリース

植物は、病原菌の感染行動を認識すると、生体防御反応を誘導することで病原菌の感染および増殖を防ぎます。ヒトの非ステロイド性抗炎症薬として知られるサリチル酸は、ヤナギの樹皮から抽出した解熱鎮痛剤の実体として2000年以上前から使用されてきましたが、植物体内においては、サリチル酸は内生のシグナル分子であり、転写補助因子NPR1を介して植物免疫応答を活性化する働きを持っています。今回新たに化合物ライブラリーから植物の免疫応答を抑制する化合物として、化学構造の類似した3種類のオキシカム系非ステロイド性抗炎症薬を同定しました。さらに、その1つが細胞内の酸化還元状態を酸化側に傾かせること、そしてサリチル酸で発現が上昇する遺伝子群を広範に抑制することを示し、サリチル酸のシグナル伝達機構の一端を明らかにしました。


Mutuku, J.M., Cui, S., Yoshida, S., and *Shirasu, K.

Orobanchaceae parasite–host interactions.

New Phytol., 230, 46-59 (2021) Link


Ogawa, S., Wakatake, T., Spallek, T., Ishida, J.K., Sano, R., Kurata, T., Demura, T., Yoshida, S., Ichihashi, Y., Schaller, A., and *Shirasu, K.

Subtilase activity in the intrusive cells mediates haustorium maturation in parasitic plants.

Plant Physiol., 185, 1381-1394 (2021) Link


*Yoshida S., and Kee, Y.J.

Large-scale sequencing paves the way for genomic and genetic analyses in parasitic plants.

Curr. Opin. Biotech., 70, 248-254 (2021) Link


Greifenhagen, A., Braunstein, I., Pfannstiel, J., Yoshida, S., Shirasu, K., Schaller, A., and *Spallek, T.

The Phtheirospermum japonicum isopentenyltransferase PjIPT1a regulates host cytokinin responses in Arabidopsis.

New Phytol., 232, 1582-1590 (2021) Link


Furuta, M.K., Xiang, L., Cui, S., and *Yoshida, S.

Molecular dissection of haustorium development in Orobanchaceae parasitic plants.

Plant Physiol., 186, 1424-1434 (2021) Link


Fishman, M.R., and *Shirasu, K.

How to resist parasitic plants: pre- and post attachment strategies.

Curr. Opin. Plant Biol., 62, 102004 (2021) Link


Masumoto, N., Suzuki, Y., Cui, S., Wakazaki, M., Sato, M., Shibata, A., Furuta, K. M., Ichihashi, Y., Shirasu, K., Toyooka, K., Sato, Y., and *Yoshida, S.

Three-dimensional reconstructions of haustoria in two parasitic plant species in the Orobanchaceae.

Plant Physiol., 185, 1429-1442 (2021) Link


Boukteb, A., Sakaguchi, S., Ichihashi, Y., Kharrat, M., Nagano, A.J., *Shirasu, K., and *Bouhadida, M.

Analysis of genetic diversity and population structure of Orobanche foetida populations from Tunisia using RADseq.

Front Plant Sci., 12, 618245 (2021) Link


Cui Songkui、*吉田聡子

寄生植物の吸器形成と宿主侵入におけるエチレンの役割

BSJ-Review, 12, 101 (2021) Link


*吉田聡子、*白須賢

ストライガのゲノム解析から見えてきた寄生植物の進化

植物の生長調節, 55, 105-109 (2020) Link


木下班・論文発表

Midorikawa, K., and *Kodama, Y.

A tool for live-cell confocal imaging of temperature-dependent organelle dynamics.

Microscopy, in press (2024) Link


Yong, L.-K., Keino, I., Kanna, Y., Noguchi, M., Fujisawa, M., and *Kodama, Y.

Functional comparison of phototropin from the liverworts Apopellia endiviifolia and Marchantia polymorpha.

Photochemistry and Photobiology, in press (2024) Link


気孔開口に必須の細胞膜プロトンポンプの新規活性調節機構を解明

Hayashi, Y., Fukatsu, K., Takahashi, K., Kinoshita, S.N., Kato, K., Sakakibara, T., Kuwata, K., and *Kinoshita, T.

Phosphorylation of plasma membrane H+-ATPase Thr881 participates in light-induced stomatal opening.

Nature Commun., 15, 1194 (2024) Linkプレスリリース

本研究では、光による気孔開口の分子機構を解明することを目的とし、ソラマメ孔辺細胞プロトプラストを用いた網羅的なホスホプロテオミクスと、シロイヌナズナを用いた遺伝子組換え実験を行いました。その結果、気孔開口において必須の役割を担う細胞膜プロトンポンプの、すでに知られているC末端から2番目のスレオニン残基(Thr948)の青色光によるリン酸化に加え、881番目のスレオニン残基(Thr881)の孔辺細胞葉緑体に作用する赤色光と青色光受容体フォトトロピンに作用する青色光によるリン酸化が、気孔開口に必要であることが明らかとなりました。また、Thr881のリン酸化は、孔辺細胞のみならず、葉や芽生えにおいても観察されること、さらに、リン酸化Thr881の脱リン酸化には、タイプ2CプロテインホスファターゼDが関与することも明らかとなりました。気孔は、シグナルとして作用する青色光のみでは開口せず、孔辺細胞の光合成を誘導する赤色光が必要であることが知られていましたが、本研究により、気孔開口における赤色光と青色光の効果を繋ぐ分子機構の一端が明らかになり、植物のマスターエンザイム・細胞膜プロトンポンプの精緻な活性調節機構が明らかとなりました。なお、本論文は武宮班の論文とback-to-backでNature Communications 誌の同一号に掲載されました。


Ichikawa, S., Sakata, M., Oba, T., and *Kodama, Y.

Fluorescein staining of chloroplast starch granules in living plants.

Plant Physiol., 194, 662–672 (2024) Link


植物ビリルビンの発見:変動する光環境下で酸化ストレスを低減する

Ishikawa, K., Xie, X., Osaki, Y., Miyawaki, A., Numata, K., and *Kodama, Y.

Bilirubin is produced nonenzymatically in plants to maintain chloroplast redox status.

Sci. Adv., 9, eadh4787 (2023) Linkプレスリリース

ビリルビンはヒトなどの動物の血液に含まれるヘムの代謝産物として知られ、黄疸の原因物質として有名な色素です。人体においてはヘムの多くが赤血球中のグロビンというタンパク質に結合した「ヘモグロビン」として存在し、酸素を全身に輸送する機能を果たしています。一方で、血液が分解される際には、グロビンタンパク質から外れたヘム(遊離ヘム)が発生しますが、これが強い毒性を有することが知られています。そこで動物は、酵素を使って遊離ヘムを分解するシステムを有しています。動物では、遊離ヘムはビリベルジンという物質になった後、最終的にビリルビンに代謝されます。植物は血液を持ちませんが、動物と同様にヘムを有し、ヘムは酵素と結合することで、光合成や呼吸などで重要な役割を果たしています。しかし植物における遊離ヘムは、葉緑体内の酵素によってビリベルジンに変換されるものの、動物とは異なり、ビリルビンには代謝されないと考えられてきました。本研究では、ビリルビンに結合した際に蛍光を発するニホンウナギ由来UnaGタンパク質を用いて、様々な植物種でビリルビンが作られることを発見しました。また植物ビリルビンは、光合成の際に大量に発生するNADPHという物質と反応して非酵素的に作られ、酸化ストレスの低減に働いていました。この非酵素反応を介したメカニズムは、植物が変動する光環境に迅速に対応するために発達させたものと考えられます。


植物の気孔開口を抑え、乾燥耐性を付与する天然物を新たに発見

Aihara, Y., Maeda, B., Goto, K., Takahashi, K., Nomoto, M., Toh S., Ye, W., Toda, Y., Uchida, M., Asai, E., Tada, Y., Itami, K., Sato, A., *Murakami, K., and *Kinoshita, T.

Identification and improvement of isothiocyanate-based inhibitors on stomatal opening to act as drought tolerance–conferring agrochemicals.

Nature Commun., 14, 2665 (2023) Linkプレスリリース

植物の表皮には気孔が数多く存在し、植物はこの孔を通して光合成に必要な二酸化炭素を取り込み、蒸散や酸素の放出など、大気とのガス交換を行っています。気孔は一対の孔辺細胞により構成され、太陽光に含まれる青色光などに応答して開口します。孔辺細胞に青色光が照射されると、青色光受容体フォトトロピンが活性化し、細胞内シグナル伝達を経て細胞膜プロトンポンプを活性化し、気孔開口の駆動力が形成されますが、青色光がどのようにプロトンポンプを活性化するのか、シグナル伝達の詳細は完全には明らかになっていません。本研究では、気孔開度制御の分子機構を明らかにするため、気孔開度に影響を与える化合物の網羅的なスクリーニング(約3万)を実施しました。その結果、アブラナ目植物がもつ天然物のイソチオシアネートであるベンジルイソチオシアネート (BITC) が細胞膜プロトンポンプの活性化を抑制することで気孔開口を抑制することが明らかとなりました。また、BITCの分子構造を改良することによって、抑制活性がBITCよりも最大66倍強いスーパーITCの開発にも成功しました。スーパーITCは、植物ホルモン・アブシジン酸をしのぐ気孔開口抑制活性を有し、かつ、効果がより長期間持続することが分かりました。さらに、これらの化合物をキクの切花や土植えのハクサイに散布したところ、乾燥による葉のしおれが抑制されることが明らかとなり、切花や生け花の鮮度保持剤や農作物の乾燥耐性付与剤としての利用が期待される結果が得られました。


Takagi, M., Hirata, R., Aihara, Y., Hayashi, Y., Mizutani-Aihara, M., Ando, E., Yoshimura-Kono, M., Tomiyama, M., Kinoshita, T., *Mine, A., and *Toda, Y.

Image-based quantification of Arabidopsis thaliana stomatal aperture from leaf images.

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Responsiveness to long days for flowering is reduced in Arabidopsis by yearly variation in growing season temperatures.

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Xie, W., Liu, S., Gao, H., Wu, J., Liu, D., Kinoshita, T., and *Huang, C.-F.

PP2C.D phosphatase SAL1 positively regulates aluminum resistance via restriction of aluminum uptake in rice.

Plant Physiol., 192, 1498–1516 (2023) Link


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Editorial: pH as a signal and secondary messenger in plant cells.

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The FLOWERING LOCUS T gene expression is controlled by high-irradiance response and external coincidence mechanism in long days in Arabidopsis.

New Phytol., 239, 208-221 (2023) Link


Yong, L.K., and *Kodama, Y.

Dark-induced chloroplast relocation depends on actin filaments in the liverwort Apopellia endiviifolia along with the light- and cold-induced relocations.

Plant Cell Environ., 46, 1822-1832 (2023) Link


Takagi, H., Hempton, A.K., and *Imaizumi, T.

Photoperiodic flowering in Arabidopsis: Multilayered regulatory mechanisms of CONSTANS and the florigen FLOWERING LOCUS T.

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Photosynthetic-product-dependent activation of plasma membrane H+-ATPase and nitrate uptake in Arabidopsis leaves.

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Bashir, K., Todaka, D., Rasheed, S., Matsui, A., Ahmad, Z., Sako, K., Utsumi, Y., Vu, A.T., Tanaka, M., Takahashi, S., Ishida, J., Tsuboi, Y., Watanabe, S., Kanno, Y., Ando, E., Shin, K.-C., Seito, M., Motegi, H., Sato, M., Li, R., Kikuchi, S., Fujita, M., Kusano, M., Kobayashi, M., Habu, Y., Nagano, A.J., Kawaura, K., Kikuchi, J., Saito, K., Hirai, M.Y., Seo, M., Shinozaki, K., Kinoshita, T., and *Seki, M.

Ethanol-mediated novel survival strategy against drought stress in plants.

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Ethanol treatment enhances drought stress avoidance in cassava (Manihot esculenta Crantz).

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Identification of abscisic acid-dependent phosphorylated basic helix-loop-helix transcription factors in guard cells of Vicia faba by mass spectrometry.

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Overexpression of plasma membrane H+-ATPase in guard cells enhances light-induced stomatal opening, photosynthesis, and plant growth in hybrid aspen.

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Identification of genes preferentially expressed in stomatal guard cells of Arabidopsis thaliana and involvement of the aluminum-activated malate transporter 6 vacuolar malate channel in stomatal opening.

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Simple nuclei preparation and co-immunoprecipitation procedures for studying protein abundance and interactions in plant circadian time courses.

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Kamiyama, Y., Hirotani, M., Ishikawa, S., Minegishi, F., Katagiri, S., Rogan, C., Takahashi, F., Nomoto, M., Ishikawa, K., Kodama, Y., Tada, Y., Takezawa, D., Anderson, J., Peck, S., Shinozaki, K., and *Umezawa, T.

Arabidopsis group C Raf-like protein kinases negatively regulate abscisic acid signaling and are direct substrates of SnRK2.

Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 118, e2100073118 (2021) Linkプレスリリース


Yong, L.K., Tsuboyama,. S, Kitamura, R., Kurokura, T., Suzuki, T., and *Kodama, Y.

Chloroplast relocation movement in the liverwort Apopellia endiviifolia.

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Mitochondrial movement during its association with chloroplasts in Arabidopsis thaliana.

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土壌中の窒素量に応じて開花時期を調節する分子機構を解明

Sanagi, M., Aoyama, S., Kubo, A., Lu, Y., Sato, Y., Ito, S., Abe, M., Mitsuda, N., Ohme-Takagi, M., Kiba, T., Nakagami, H., Rolland, F., Yamaguchi, J., *Imaizumi, T., and *Sato, T.

Low nitrogen conditions accelerate flowering by modulating the phosphorylation state of FLOWERING BHLH 4 in Arabidopsis.

Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 118, e2022942118 (2021) Linkプレスリリース

土壌中の窒素量が開花時期に影響を及ぼすという観察は農作物でも見受けられますがそのメカニズムは殆ど分かっていませんでした。本研究では、窒素量に応じてリン酸化の程度が顕著に異なる転写因子が開花制御に重要な因子であるFBH4であることを発見しました。さらに培養条件中の窒素量によりFBH4タンパク質のリン酸化修飾変化が起こり、タンパク質の細胞内局在を変化させることによって転写因子の活性を制御していることが示唆されました。その上FBH4タンパク質はSnRK1リン酸化酵素によりリン酸化される事、また窒素量に応じてSnRK1の活性が変わる事を見出しました。これらのメカニズムを介して窒素量の変化が開花時期を調節する事を明らかにしました。


*Kinoshita, T., Toh, S., and *Torii, K.U.

Chemical control of stomatal function and development.

Curr. Opin. Plant Biol., 60, 102010 (2021) Link


植物の養分吸収、気孔開口や光合成に多大な影響を与える重要因子の発見

Zhang, M., Wang, Y., Chen, X., Xu, F., Ding, M., Ye, W., Kawai, Y., Toda, Y., Hayashi, Y., Suzuki, T., Zeng, H., Xiao, L., Xiao, X., Xu, J., Guo, S., Yan, F., Shen, Q., Xu, G., *Kinoshita, T., and *Zhu, Y.

Plasma membrane H+-ATPase overexpression increases rice yield via simultaneous enhancement of nutrient uptake and photosynthesis.

Nature Commun., 12, 735 (2021) Link, プレスリリース

植物は、根から窒素などの養分を吸収すると同時に、葉の気孔を開き、CO2を取り込んで光合成を行い、成長しています。本研究では、イネの養分吸収と気孔開口について解析を行い、細胞膜プロトンポンプと呼ばれる酵素が共通して重要な役割を果たすことが明らかとなりました。そこで、プロトンポンプ過剰発現イネの詳細な解析を行ったところ、野生株と比べ、根での養分吸収、気孔開口、光合成活性が20%以上増加し、隔離水田での栽培試験において収量が30%以上増加することが明らかとなりました。さらに過剰発現イネでは窒素の施肥量を半分に減らしても、通常より収量が多いことを見出しました。本研究の成果は、今後、食糧増産や環境問題に大きく関わるCO2や肥料の削減に貢献することが期待されます。


Pudasaini, A., Green, R., Song, Y.H., Blumenfeld, A., Karki, N., Imaizumi, T., and *Zoltowski, B.D.

Steric and electronic interactions at Gln154 in ZEITLUPE induce reorganization of the LOV domain dimer interface.

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杉本班・論文発表

Chen, Y., Ince, Y.Ç., Kawamura, A., Favero, D.S., Suzuki, T., and *Sugimoto, K.

ELONGATED HYPOCOTYL5-mediated light signaling promotes shoot regeneration in Arabidopsis thaliana.

Plant Physiol., in press (2024) Linkプレスリリース


*Tonosaki, K., Susaki, D., Morinaka, H., Ono, A., Nagata, H., Furuumi, H., Nonomura, K.-I., Sato, Y., Sugimoto, K., Comai, L., Hatakeyama, K., *Kawakatsu, T., and *Kinoshita, T.

Multilayered epigenetic control of persistent and stage-specific imprinted genes in rice endosperm.

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Nuclear pores beyond macromolecule channels.

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Plant chromosome polytenization contributes to suppression of the root growth in high-polyploids.

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A chromosome-level genome assembly for the amphibious plant Rorippa aquatica reveals its allotetraploid origin and mechanisms of heterophylly upon submergence.

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Novel whole-mount FISH analysis for intact root of Arabidopsis thaliana with spatial reference to 3D visualization.

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Kato, S., Misumi, O., Maruyama, S., Nozaki, H., Tsujimoto-Inui, Y., Takusagawa, M., Suzuki, S., Kuwata, K., Noda, S., Ito, N., Okabe, Y., Sakamoto, T., Yagisawa, F., Matsunaga, T. M., Matsubayashi, Y., Yamaguchi, H., Kawachi, M., Kuroiwa, H., *Kuroiwa, T., and *Matsunaga, S.

Genomic analysis of an ultrasmall freshwater green alga, Medakamo hakoo.

Commun. Biol., 6, 89 (2023) Linkプレスリリース


Li, Y., and *Matsunaga, S.

Various strategies for improved signal-to-noise ratio in CRISPR-based live cell imaging.

Cytologia, 88, 3-7 (2023) Link


Takatsuka, H., Nomoto, Y., Yamada, K., Mineta, K., Breuer, C., Ishida, T., Yamagami, A., Sugimoto, K., Nakano, T., and *Ito, M.

MYB3R-SCL28-SMR module with a role in cell size control negatively regulates G2 progression in Arabidopsis

Plant Signal. Behav., e2153209 (2022) Link


*Morinaka, H., Coleman, D., Sugimoto, K., and *Iwase, A.

Molecular mechanisms of plant regeneration from differentiated cells: approaches from historical tissue culture systems.

Plant Cell Physiol., 64, 297-304 (2022) Link


Jacques, C.N., *Favero, D.S., Kawamura, A., Suzuki, T., Sugimoto, K., and *Neff, M.M.

SUPPRESSOR OF PHYTOCHROME B-4#3 reduces the expression of PIF-activated genes and increases expression of growth repressors to regulate hypocotyl elongation in short days.

BMC Plant Biol., 22, 399 (2022) Link


Okabe, Y., and *Matsunaga, S.

Natural and artificial photosymbiosis in vertebrates.

Cytologia, 87, 69-72 (2022) Link


Mori, S., Sumiya, N., and *Matsunaga, S.

Nucleomorph: A fascinating remnant of endosymbiosis.

Cytologia, 87, 203-208 (2022) Link


*Matsunaga S.

Transcription factors linking the perception of mechanical stress at the cell wall with the responsive gene network.

Mol. Plant, 15, 1662–1663 (2022) Link


Sakamoto, Y., Kawamura, A., Suzuki, T., Segami, S., Maeshima, M., Polyn, S., De Veylder, L., and *Sugimoto, K.

Transcriptional activation of auxin biosynthesis drives developmental reprogramming of differentiated cells.

Plant Cell, 34, 4348-4365 (2022) Linkプレスリリース


細胞核におけるDNA空間配置を決めるメカニズムを解明

*Sakamoto, T., Sakamoto, Y., Grob, S., Slane, D., Yamashita, T., Ito, N., Oko, Y., Sugiyama, T., Higaki, T., Hasezawa, S., Tanaka, M., Matsui, A., Seki, M., Suzuki, T., Grossniklaus, U., and *Matsunaga, S.

Two-step regulation of centromere distribution by condensin II and the nuclear envelope proteins.

Nature Plants, 8, 940-953 (2022) Linkプレスリリース

様々な環境に対応する遺伝子発現を正常に実行するためには、細胞核内のDNAが3次元的に適切な空間配置ポジションをとることが重要であることが示唆されています。シロイヌナズナの変異体を使用してセントロメアを分散配置させるタンパク質群(CII-LINC複合体およびCRWN)の同定に成功し、二つの分子経路が関与することを明らかにしました。1885年以来、130年以上、謎であったセントロメアの空間配置パターンの分子メカニズムが明らかになりました。また、正常なセントロメアの空間配置ができなくなると、DNA損傷ストレスを受けた時に器官成長が悪くなることがわかりました。これは、生物が環境ストレスに対応するためには、細胞核内の適切なDNAの空間配置が必要なことを示唆しています。


*Shibata, M., Favero, D., Takebayashi, R., Takebayashi, A., Kawamura, A., Rymen, B, Hosokawa, Y., and *Sugimoto, K.

Trihelix transcription factors GTL1 and DF1 prevent aberrant root hair formation in an excess nutrient condition.

New Phytol., 235, 1426-1441 (2022) Link


Nomoto, Y., Takatsuka, H., Yamada, K., Suzuki, T., Suzuki, T., Huang, Y., Latrasse, D., An, J., Gombos, M., Breuer, C., Ishida, T., Maeo, K., Imamura, M., Yamashino, T., Sugimoto, K., Magyar, Z., Bögre, L., Raynaud, C., Benhamed, M., and *Ito, M.

A hierarchical transcriptional network activates specific CDK inhibitors that regulate G2 to control cell size and number in Arabidopsis.

Nature Commun., 13, 1660 (2022) Link


Méteignier, L.V., Lecampion, C., Velay, F., Vriet, C., Dimnet, L., Rougée, M., Breuer, C., Soubigou-Taconnat, L., Sugimoto, K., Barneche, F., and *Laloi, C.

Topoisomerase VI participates in an insulator-like function that prevents H3K9me2 spreading.

Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 119, e2001290119 (2022) Link


Serivichyaswat, P.T., Bartusch, K., Leso, M., Musseau, C., Iwase, A., Chen, Y., Sugimoto, K., Quint, M., and *Melnyk, C.W.

High temperature perception in leaves promotes vascular regeneration in distance tissues.

Development, 149, dev200079 (2022) Link


Sato, M., Akashi, H., Sakamoto, Y., Matsunaga, S., and *Tsuji, H.

Whole-tissue three-dimensional imaging of rice at single-cell resolution.

Int. J. Mol. Sci., 23, 40 (2022) Link


*Kim, J.S., Sakamoto, Y., Takahashi, F., Shibata, M., Urano, K., Matsunaga, S., Yamaguchi-Shinozaki, K., and *Shinozaki, K.

Arabidopsis TBP-ASSOCIATED FACTOR 12 ortholog NOBIRO6 controls root elongation with unfolded protein response cofactor activity.

Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 119, e2120219119 (2022) Linkプレスリリース


*Roeder, A.H.K., Otegui, M.S., Dixit, R., Anderson, C.T., Faulkner, C., Zhang, Y., Harrison, M.J., Kirchhelle, C., Goshima, G., Coate, J.E., Doyle, J.J., Hamant, O., Sugimoto, K., Dolan, L., Meyer, H., Ehrhardt, D.W., Boudaoud, A., and Messina, C.

Fifteen compelling open questions in plant cell biology.

Plant Cell, 34, 72-102 (2022) Link


Lambolez, A., Kawamura, A., Takahashi, T., Rymen, B., Iwase, A., Favero, D.S., Ikeuchi, M., Suzuki, T., Cortijo, S., Jaeger, K.E., Wigge, P.A., and *Sugimoto, K.

Warm temperature promotes shoot regeneration in Arabidopsis thaliana.

Plant Cell Physiol., 63, 618-634 (2022) Link


*Iwase, A., Takebayashi, A., Aoi, Y., Favero, D.S., Watanabe, S., Seo, M., Kasahara, H., and *Sugimoto, K.

4-Phenylbutyric acid promotes plant regeneration as an auxin by being converted to phenylacetic acid via an IBR3-independent pathway.

Plant Biotechnol., 39, 51-58 (2022) Link


*Ikeuchi, M., Iwase, A., Ito, T., Tanaka, H., Favero, D.S., Kawamura, A., Sakamoto, S., Wakazaki, M., Tameshige, T., Fujii, H., Hashimoto, N., Suzuki, T., Hotta, K., Toyooka, K., Mitsuda, N., and Sugimoto, K.

Wound-inducible WUSCHEL-RELATED HOMEOBOX 13 is required for callus growth and organ reconnection.

Plant Physiol., 188, 425-441 (2022) Link


*Sugimoto, K., and *Nowack, M.K.

Plant development meets climate emergency – it's time to plant an apple tree.

Curr. Opin. Plant Biol., 65, 102175 (2022) Link


Sakamoto, Y., Ishimoto, A., Sakai, Y., Sato, M., Nishihama, R., Abe, K., Sano, Y., Furuichi, T., Tsuji, H., Kohchi, T., and *Matsunaga, S.

Improved clearing method contributes to deep imaging of plant organs.

Commun. Biol., 5, 12 (2022) Linkプレスリリース


Morinaka, H., Mamiya, A., Tamaki, H., Iwamoto, A., Suzuki, T., Kawamura, A., Ikeuchi, M., Iwase, A., Higashiyama, T., Sugimoto, K., and *Sugiyama, M.

Transcriptome dynamics of epidermal reprogramming during direct shoot regeneration in Torenia fournieri.

Plant Cell Physiol., 62, 1335-1354 (2021) Link


*Iwase, A., Kondo, Y., Laohavisit, A., Takebayashi, A., Ikeuchi, M., Matsuoka, K., Asahina, M., Mitsuda, N., Shirasu, K., Fukuda, H., and *Sugimoto, K.

WIND transcription factors orchestrate wound-induced callus formation, vascular reconnection and defense response in Arabidopsis.

New Phytol., 232, 734-752 (2021) Linkプレスリリース


Yagi, N., Kato, T., Matsunaga, S., Ehrhardt, D.W., *Nakamura, M., and *Hashimoto T.

An anchoring complex recruits katanin for microtubule severing at the plant cortical nucleation sites.

Nature Commun., 12, 3687 (2021) Link


Aoki, R., and *Matsunaga, S.

A photosynthetic animal: a sacoglossan sea slug that steals chloroplasts.

Cytologia, 86, 103-107 (2021) Link


Shibuta, M.K., Sakamoto, T., Yamaoka, T., Yoshikawa, M., Kasamatsu, S., Yagi, N., Fujimoto, S., Suzuki, T., Uchino, S., Sato, Y., Kimura, H., and *Matsunaga, S.

A live imaging system to analyze spatiotemporal dynamics of RNA polymerase II modification in Arabidopsis thaliana.

Commun. Biol., 4, 580 (2021) Link, プレスリリース


Matsuo, T., Isosaka, T., Hayashi, Y., Tang, L., Doi, A., Yasuda, A., Hayashi, M., Lee, C.Y., Cao, L., Kutsuna, N., Matsunaga, S., Matsuda, T., Yao, I., Setou, M., Kanagawa, D., Higasa, K., Ikawa, M., *Liu, Q., *Kobayakawa, R., and *Kobayakawa, K.

Thiazoline-related innate fear stimuli orchestrate hypothermia and anti-hypoxia via sensory TRPA1 activation.

Nature Commun., 12, 2074 (2021) Link


Fujiwara, Y., Matsunaga, S., and *Sakamoto, T.

Next generation sequence-based technologies for analyzing DNA strand breaks.

Cytologia, 86, 3-9 (2021) Link


Martinez, C.C., Li, S., Woodhouse, M.R., Sugimoto, K., and *Shinha, N.R.

Spatial transcriptional signatures define margin morphogenesis along the proximal-distal and medio-lateral axes in tomato (Solanum lycopersicum) leaves.

Plant Cell, 33, 44-65 (2021) Link


Kobayashi, A., Takayama, Y., Hirakawa, T., Okajima, K., Oide, M., Oroguchi, T., Inui, Y., Yamamoto, M., Matsunaga, S., and *Nakasako, M.

Common architectures in cyanobacteria Prochlorococcus cells visualized by X-ray diffraction imaging using X-ray free-electron laser.

Sci. Rep., 11, 3877 (2021) Link


Kawakubo, H., *Kamisuki, S., Suzuki, K., Carbonell, J. I., Saito, S., Murata, H., Tanabe, A., Hongo, A., Murakami, H., Matsunaga, S., Sakaguchi, K., Sahara, H., Sugawara, F., and Kuramochi, K.

SQAP, an acyl sulfoquinovosyl derivative, suppresses expression of histone deacetylase and induces cell death of cancer cells under hypoxic conditions.

Biosci. Biotech. Biochem., 85, 85-91 (2021) Link


環境変化に応じて遺伝子が細胞核内の空間配置を変化させる仕組みを解明

Sakamoto, Y., Sato, M., Sato, Y., Harada, A., Suzuki, T., Goto, C., Tamura, K., Toyooka, K., Kimura, H., Ohkawa, Y., Hara-Nishimura, I., Takagi, S., and *Matsunaga, S.

Subnuclear gene positioning through lamina association affects copper tolerance.

Nature Commun., 11, 5914 (2020) Link, プレスリリース

遺伝子は3次元的にDNAがパッケージングされた細胞核内で、空間に配置されています。そのため、遺伝子が細胞核内の3次元的配置を変化させて、遺伝子発現のON/OFFを調節することが知られていましたが、その詳細なメカニズムは不明なままでした。細胞核内の遺伝子の3次元的配置を制御するタンパク質として、核膜裏打ちタンパク質CRWNを同定しました。また、蛍光イメージング、クロマチン挿入標識(CHIL)、蛍光in situ hybridization (FISH)を用いることで、外部環境の変化に応じて遺伝子の空間配置が変化することが明らかになりました。銅環境の変化に合わせて銅関連遺伝子の空間配置が変化し、銅関連遺伝子がCRWNに結合することで遺伝子の発現がONになることがわかりました。


Nishioka, S., Sakamoto, T., and *Matsunaga, S.

Roles of BRAHMA and its interacting partners in plant chromatin remodeling.

Cytologia, 85, 263-267 (2020) Link

芦苅班・論文発表

Li, J., Ishii, T., Yoshioka, M., Hino, Y., Nomoto, M., Tada, Y., Yoshioka, H., Takahashi, H., *Yamauchi, T., and *Nakazono, M.

CDPK5 and CDPK13 play key roles in acclimation to low oxygen through the control of RBOH-mediated ROS production in rice.

Plant Physiol., in press (2024) Linkプレスリリース


Jiménez, J.d.l.C., Noorrohmah, S., Suresh, K., Zeisler-Diehl, V.V., Peralta Ogorek, L.L., Herzog, M., Pellegrini, E., Nagai, K., Ashikari, M., *Takahashi, H., *Pedersen, O., Schreiber, L., and *Nakazono, M.

Leaf Gas Film 1 promotes glycerol ester accumulation and formation of a tight root barrier to radial O2 loss in rice.

Plant Physiol., in press (2024) Link


Murao, M., Kato, R., Kusano, S., Hisamatsu, R., Endo, H., Kawabata, Y., Kimura, S., Sato, A., Mori, H., Itami, K., Torii, K.U., Hagihara, S., and *Uchida, N.

A small compound, HYGIC, promotes hypocotyl growth through ectopic ethylene response.

Plant Cell Physiol., 64, 1167-1177 (2023) Link


*Takahashi, H., Abo, C., Suzuki, H., Romsuk, J., Oi, T., Yanagawa, A., Gorai, T., Tomisaki, Y., Jitsui, M., Shimamura, S., Mori, H., Kaga, A., Ishimoto, M., Seki, H., Muranaka, T., and Nakazono, M.

Triterpenoids in aerenchymatous phellem contribute to internal root aeration and waterlogging adaptability in soybeans.

New Phytol., 239, 936-948 (2023) Linkプレスリリース


Tomoi, T., Tameshige, T., Betsuyaku, E., Hamada, S., Sakamoto, J., Uchida, N., Torii, K.U., Shimizu, K.K., Tamada, Y., Urawa, H., Okada, K., Fukuda, H., Tatematsu, K., *Kamei, Y., and *Betsuyaku, S.

An improved method to achieve targeted single-cell gene induction in Arabidopsis thaliana.

Front. Plant Sci., 14, 1171531 (2023) Link


*Nagai, K.,and Ashikari, M.

Molecular mechanism of internode elongation in rice.

Breed. Sci., 73, 108-116 (2023) Link


Ning, J., Yamauchi, T., Takahashi, H., Omori, F., Mano, Y., and *Nakazono, M.

Asymmetric auxin distribution establishes a contrasting pattern of aerenchyma formation in the nodal roots of Zea nicaraguensis during gravistimulation.

Front. Plant Sci., 14, 1133009 (2023) Link


Agata, A., Ashikari, M., Sato, Y., Kitano, H., and *Hobo, T.

Designing rice panicle architecture via developmental regulatory genes.

Breed. Sci., 73, 86-94 (2023) Link


*Peralta Ogorek, L.L., Takahashi, H., Nakazono, M., and *Pedersen, O.

The barrier to radial oxygen loss protects roots against hydrogen sulphide intrusion and its toxic effect.

New Phytol., 238, 1825-1837 (2023) Link


Nakashima, Y., Kobayashi, Y., Murao, M., Kato, R., Endo, H., Higo, A., Iwasaki, R., Kojima, M., Takebayashi, Y., Sato, A., Nomoto, M., Sakakibara, H., Tada, Y., Itami, K., Kimura, S., Hagihara, S., Torii, K.U., and *Uchida, N.

Identification of a pluripotency-inducing small compound, PLU, that induces callus formation via Heat Shock Protein 90-mediated activation of auxin signaling.

Front. Plant Sci., 14, 1099587 (2023) Link


アフリカの栽培イネが芒(のぎ)を失った理由を解明

Bessho-Uehara, K., Masuda, K., Wang, D., Angeles-Shim, R., Obara, K., Nagai, K., Murase, R., Aoki, S., Furuta, T., Miura, K., Wu, J., Yamagata, Y., Yasui, H., Kantar, M., Yoshimura, A., Kamura, T., McCouch, S., and *Ashikari M.

REGULATOR OF AWN ELONGATION 3, an E3 ubiquitin ligase, is responsible for loss of awns during African rice domestication.

Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 120, e2207105120 (2023) Linkプレスリリース

人類はおよそ1万年かけて、野生イネを改良して栽培に適したものにしてきました。イネはアジアとアフリカの2地域で独立に栽培化されましたが、その標的となった表現型は両者で共通するものが多く、芒(のぎ)の喪失もその1つでした。イネの芒は種子先端に形成される突起状の構造物で、野生イネでは自然状況下において種子の拡散や鳥獣からの食害防除に役立っていますが、栽培する上では作業を煩雑化する形質で、栽培化の過程で取り除かれました。本研究では、栽培化の過程でアフリカイネが芒を失う原因となった遺伝子変異を同定しました。これまでに研究チームは、アジアイネの芒喪失にRAE1とRAE2の2つの遺伝子の機能欠損が重要であったことを示してきましたが、アフリカイネの芒喪失については詳しくわかっていませんでした。本研究では、アフリカイネにおける芒喪失はE3ユビキチンリガーゼをコードするRAE3という遺伝子の機能欠損が原因であったことを示しました。これまでアジアイネとアフリカイネの栽培化関連形質は、同じ遺伝子の異なる変異が選抜されることにより達成されてきたと報告されていましたが、今回初めて、アジアイネとアフリカイネで共通の栽培化形質(芒の喪失)が異なる遺伝子変異の選抜によってもたらされたことを明らかにしました。


Negoro, S., Hirabayashi, T., Iwasaki, R., Torii, K.U., and *Uchida, N.

EPFL peptide signalling ensures robust self-pollination success under cool temperature stress by aligning the length of the stamen and pistil.

Plant Cell Environ., 46, 451-463 (2023) Linkプレスリリース


Niimi, Y., Nagai, K., Ashikari, M., and *Mizuta, Y.

Deep fluorescence observation in rice shoots via clearing technology.

J. Vis. Exp., 184, e64116 (2022) Link


*Yamauchi, T., and Nakazono, M.

Modeling-based age-dependent analysis reveals the net patterns of ethylene-dependent and -independent aerenchyma formation in rice and maize roots.

Plant Sci., 321, 111340 (2022) Link


*Nagai, K., Kurokawa, Y., Mori, Y., Minami, A., Reuscher, S., Wu, J., Matsumoto, T., and Ashikari, M.

SNORKEL genes relating to flood tolerance were pseudogenized in normal cultivated rice.

Plants, 11, 376 (2022) Link


Fujihara, R., Uchida, N., Tameshige, T., Kawamoto, N., Hotokezaka, Y., Higaki, T., Simon, R., Torii, K.U., Tasaka, M., and *Aida, M.

The boundary-expressed EPIDERMAL PATTERNING FACTOR-LIKE2 gene encoding a signaling peptide promotes cotyledon growth during Arabidopsis thaliana embryogenesis.

Plant Biotechnol., 38, 317-322 (2021) Link


*Yin, Y.G., Mori, Y., Suzui, N., Kurita, K., Yamaguchi, M., Miyoshi, Y., Nagao, Y., Ashikari, M., *Nagai, K., and Kawachi, N.

Noninvasive imaging of hollow structures and gas movement revealed the gas partial-pressure-gradient-driven long-distance gas movement in the aerenchyma along the leaf blade to submerged organs in rice.

New Phytol., 232, 1974-1984 (2021) Link


Bessho-Uehara, K., Yamagata, Y., Takashi, T., Makino, T., Yasui, H., Yoshimura, A., and *Ashikari, M.

Exploring the loci responsible for awn development in rice through comparative analysis of all AA genome species.

Plants, 10, 725 (2021) Link


*Jiménez, JdlC., Pellegrini, E., Pedersen, O., and Nakazono, M.

Radial oxygen loss from plant roots – methods.

Plants, 10, 2322 (2021) Link


*Yamauchi, T., and *Nakazono, M.

Mechanisms of lysigenous aerenchyma formation under abiotic stress.

Trends Plant Sci., 27, 13-15 (2022) Link


Cheng, P., Cao, L.J., B, Chen., Ashikari, M., and *Song, X.J.

Fine mapping and characterization of two novel quantitative trait loci for early seedling growth in rice.

Planta, 253, 56 (2021) Link


Noorrohmah, S., Takahashi, H., and *Nakazono, M.

Formation of a barrier to radial oxygen loss in L-type lateral roots of rice.

Plant Root, 14, 33-41 (2020) Link

佐瀬班・論文発表

ヒストンH3K9メチル化が転写の抑制と活性化の二刀流として働くことを発見

Yabe, K., Kamio, A., Oya, S., Kakutani, T., Hirayama, M., Tanaka, Y., and *Inagaki, S.

H3K9 methylation regulates heterochromatin silencing through incoherent feedforward loops.

Sci. Adv., 9, eadn4149 (2024) Linkプレスリリース

真核生物に広く保存されたヒストン修飾であるH3K9メチル化は、ヘテロクロマチンの形成と転写の抑制に重要な役割を持つことが知られています。しかし、H3K9メチル化がどのように転写を抑制するのか、その詳細な仕組みは明らかになっていませんでした。本研究では、H3K9メチル化が転写を抑制する仕組みを明らかにする中で、H3K9メチル化が転写抑制機能に加えて、真逆の機能、つまり転写促進機能を持つことを明らかにしました。このH3K9メチル化が持つ「二刀流」の機能は転写抑制に働くタンパク質LDL2と、LDL2の機能を阻害することによって転写を促進するタンパク質ASHH3によって実現されることがわかりました。ASHH3はH3K9メチル化がある領域にH3K36メチル化という転写の活性化と関連したヒストンマークを導入するという、従来の定説からは全く予想外の働きをしていることが明らかになりました。本研究の成果は、エピジェネティクス研究の初期に発見され長い間転写の抑制修飾として信じられてきたH3K9メチル化の機能について一石を投じるものであり、同様の仕組みが他の生物でも見つかる可能性が考えられます。また、H3K9メチル化の二刀流制御による転写の微調整が植物の可塑的な環境応答に果たす役割に興味がもたれます。


遺伝子の転写をヒストンの脱メチル化で記録する分子機構の解明

*Mori, S., Oya, S., Takahashi, M., Takashima, K., *Inagaki, S., and *Kakutani, T.

Cotranscriptional demethylation induces global loss of H3K4me2 from active genes in Arabidopsis.

EMBO J., e113798 (2023) Linkプレスリリース

変動する自然環境の中で植物が効率的に遺伝子発現を変動させて環境に適応するためには、過去の遺伝子発現状態の情報を活かし、次に来る同様の環境変動に迅速に応答する必要があると考えられます。しかし、遺伝子の転写活性をどのように記録するのか、その分子メカニズムは不明でした。本研究では一般的に転写活性型マークと考えられてきたヒストンH3の4番目のリジンのジメチル化(H3K4me2)は植物においては転写抑制的に働くこと、また、H3K4me2を除く脱メチル化酵素であるLDL3タンパク質が転写中のRNAポリメラーゼに結合して働き、転写が活発に起きている遺伝子領域からH3K4me2を除くことを明らかにしました。その結果出来上がる低H3K4me2レベル状態は遺伝子発現に促進的に働くと考えられます。LDL3タンパク質のRNAポリメラーゼとの結合能力は陸上植物の進化の過程で獲得されたと考えられることから、動けない植物が変動環境に迅速に対応する巧みな仕組みであると考えられます。


遺伝子と転移因子配列の融合mRNAのエピジェネティック制御と環境ストレス応答

*Berthelier, J., Furci, L., Asai, S., Sadykova, M., Shimazaki, T., Shirasu, K., and *Saze, H.

Long-read direct RNA sequencing reveals epigenetic regulation of chimeric gene-transposon transcripts in Arabidopsis thaliana.

Nature Commun., 14, 3248 (2023) Linkプレスリリース

ゲノム中には転移因子(トランスポゾン)と呼ばれるDNA配列が多数存在しています。トランスポゾンはゲノム中を移動して遺伝子を破壊したり、自身のコピーを増幅させる性質があるため、植物はトランスポゾンの活性を抑制するDNAメチル化やヒストン修飾などのエピジェネティックな機構を進化させてきました。トランスポゾンは遺伝子の近傍や内部にも存在していますが、どのように遺伝子の発現と機能に影響するかは多くが未解明のままです。本研究では、RNAダイレクトシークエンシングという直接RNA分子を検出する技術を用いてシロイヌナズナを解析し、通常の遺伝子とトランスポゾン配列が融合したmRNAを転写する数千の遺伝子座を新たに同定しました。また、DNAメチル化やヒストン修飾の変化、環境ストレスが遺伝子-トランスポゾン転写産物の制御に影響を与えることも明らかになりました。さらに、領域内の吉田班白須グループとの共同研究により遺伝子-トランスポゾン転写産物の発現パターンが変化した変異体では病原体感染に対してより抵抗性が上昇していることも見出しました。高温や病原菌などのに応じてトランスポゾンの発現量が変化していることが分かりました。今回の研究からトランスポゾン配列による遺伝子転写制御と環境適応のメカニズムの一端が明らかになりました。


Chavan, S.S., Saze, H., and *Tanaka, F.

Chemical modification of peptides and proteins using spirooxindole oxirane derivatives.

Adv. Synth. Catal., 365, 2171-2176 (2023) Link


*Saze, H., and *Springer, N.

Editorial overview: Delving into organizational principles of plant genomes.

Curr. Opin. Plant Biol., 76, 102458 (2023) Link


Nozawa, K., Masuda, S., Saze, H., Ikeda, Y., Suzuki, T., Takagi, H., Tanaka, K., Ohama, N., Niu, X., Kato, A., and *Ito, H.

Epigenetic regulation of ecotype-specific expression of the heat- activated transposon ONSEN.

Front. Plant Sci., 13, 899105 (2022) Link


Furci, L., Berthelier, J., Juez, O., Miryeganeh, M., and *Saze, H.

Handbook of Epigenetics, 263-286 (2022)


Nozawa, K., Masuda, S., Saze, H., Ikeda, Y., Suzuki, T., Takagi, H., Tanaka, K., Ohama, N., Niu, X., Kato, A., and *Ito, H.

Epigenetic regulation of ecotype-specific expression of the heat- activated transposon ONSEN.

Front. Plant Sci., 13, 899105 (2022) Link


Asanuma, T., Inagaki, S., Kakutani, T., Aburatani, H., and *Murakami, Y.

Tandemly repeated genes promote RNAi-mediated heterochromatin formation via an antisilencing factor, Epe1, in fission yeast.

Genes Dev., 36, 1145 (2022) Linkプレスリリース


ヒストン修飾の分布を決める2つの機構を発見

*Oya, S., Takahashi, M., Takashima, K., *Kakutani, T., and *Inagaki, S.

Transcription-coupled and epigenome-encoded mechanisms direct H3K4 methylation.

Nature Commun., 13, 4521 (2022) Linkプレスリリース

ヒストン修飾の1つであるヒストンH3タンパク質の4番目のリジンのメチル化(H3K4メチル化)は、進化的保存性が高く、ゲノムの中でも特に発現レベルの高い遺伝子領域に分布してします。H3K4メチル化が遺伝子の発現を促進しているのか、あるいは遺伝子発現の結果導入されるものなのかといった点や、H3K4メチル化が特定のゲノム領域に導入される仕組みについては、いくつもの仮説が提案され、議論が続いていました。今回の研究では複数あるH3K4メチル化酵素それぞれのゲノム中の分布を実験的に決定し、局在パターンを機械学習によりモデル化する手法から、遺伝子の転写装置と共働するタイプのメチル化酵素と、特定のクロマチン修飾やDNA配列を標的にするタイプのメチル化酵素の2つが分業してH3K4メチル化を制御していることを見出しました。またこの2つの制御モードはシロイヌナズナとマウスという進化的に遠く離れた生物種間で保存されていることも見出しました。


*Miryeganeh, M., Marlétaz, F., Gavriouchkina., D, and *Saze, H.

De novo genome assembly and in natura epigenomics reveal salinity-induced DNA methylation in the mangrove tree Bruguiera gymnorhiza.

New Phytol., 233, 2094-2110 (2022) Link, プレスリリース


*Inagaki, S.

The complex world of genetic systems for elaborate gene regulation that enables flexible plant life.

Genes Genet. Syst., 96, 207 (2021) Link


*Inagaki, S.

Silencing and anti-silencing mechanisms that shape the epigenome in plants.

Genes Genet. Syst., 96, 217 (2021) Link


*Yamaguchi, N., Matsubara, S., Yoshimizu, K., Seki, M., Hamada, K., Kamitani, M., Kurita, Y., Nomura, Y., Nagashima, K., Inagaki, S., Suzuki, T., Gan, E.S., To, T., Kakutani, T., Nagano, A.J., Satake, A., and *Ito, T.

H3K27me3 demethylases alter HSP22 and HSP17.6C expression in response to recurring heat in Arabidopsis.

Nature Commun., 12, 3480 (2021) Link


Takahashi, N., Inagaki, S., Nishimura, K., Sakakibara, H., Antoniadi, I., Krady, M., Ljung, K., and *Umeda, M.

Alterations in hormonal signals spatially coordinate distinct responses to DNA double-strand breaks in Arabidopsis roots.

Sci. Adv., 7, eabg0993 (2021) Link


アンチセンス転写によって駆動されるエピゲノム制御機構の発見

*Inagaki, S., Takahashi, M., Takashima, K., Oya, S., and Kakutani, T.

Chromatin-based mechanisms to coordinate convergent overlapping transcription.

Nature Plants, 7, 295-302 (2021) Link, プレスリリース

生物のゲノム上ではタンパク質をコードする遺伝子のみならず、非コード転写も頻繁に起きており、ゲノム上では入り組んだ転写が起きていることが分かってきていますが、この入り組んだ転写を調節する仕組みはほとんど理解されていません。今回の研究では、ゲノムが小さく、遺伝子が密に並んでいるシロイヌナズナにおいて、数百もの遺伝子領域において逆向きにオーバーラップする転写(アンチセンス転写)が起きていること、またこのアンチセンス転写が起きている領域の転写を調節する新たなエピゲノム制御機構を見出しました。またこの制御は、植物が冬の低温を記憶し春に開花する仕組みに関与しています。これらの結果は、ゲノム上での近隣遺伝子との関係性がエピゲノムを介して遺伝子発現や環境への適応に果たす役割を示唆しています。


*#To, T.K., #Nishizawa, Y., #Inagaki, S., #Tarutani, Y., Tominaga, S., Toyoda, A., Fujiyama, A., Berger, F., and *Kakutani, T.

RNA interference-independent reprogramming of DNA methylation in Arabidopsis.

Nature Plants, 6, 1455–1467 (2020) Link, プレスリリース

佐藤班・論文発表

Wang, Y., Perez-Sancho, J., Platre, M.P., Callebaut, B., Smokvarska, M., Ferrer, K., Luo, Y., Nolan, T.M., Sato, T., Busch, W., Benfey, P.N., Kvasnica, M., Winne, J.M., Bayer, E.M., *Vukašinović, N., and *Russinova, E.

Plasmodesmata mediate cell-to-cell transport of brassinosteroid hormones.

Nature Chem. Biol., 19, 1331-1341 (2023) Link


Jie, L., Sanagi, M., Luo, Y., Maeda, H., Fukao, Y., Chiba, Y., Yanagisawa, S., Yamaguchi, J., Takagi, J., and *Sato, T.

Histone chaperone NUCLEOSOME ASSEMBLY PROTEIN 1 proteins affect plant growth under nitrogen deficient conditions in Arabidopsis thaliana.

Plant Biotechnol., 40, 93-98 (2023) Link


眞木美帆,*佐藤長緒

窒素栄養に応答した植物の花成制御

生化学, 94, 892-895 (2022)


Luo, Y., Yasuda, S., Takagi, J., Hasegawa, Y., Chiba, Y., Yamaguchi, J., and *Sato, T.

Deubiquitinating enzymes UBP12 and UBP13 regulate carbon/nitrogen-nutrient stress responses by interacting with the membrane-localized ubiquitin ligase ATL31 in Arabidopsis.

Biochem. Biophys. Res. Commun., 636, 55-61 (2022) Link


Maki, Y., Soejima, H., Sugiyama, T., Sato, T., Yamaguchi, J., and *Watahiki, M.K.

Conjugates of 3-phenyllactic acid and tryptophan enhance root-promoting activity without adverse effects in Vigna angularis.

Plant Biotechnol., 39, 173-177 (2022) Link


*Maki, Y., Soejima, H., Sugiyama, T., Watahiki, M.K., Sato, T., and *Yamaguchi, J.

3-Phenyllactic acid is converted to phenylacetic acid and induces auxin-responsive root growth in Arabidopsis plants.

Plant Biotechnol., 39, 111-117 (2022) Link


Luo, Y., Takagi, J., Claus, L.A.N., Zhang, C., Yasuda, S., Hasegawa, Y., Yamaguchi, J., Shan, L., Russinova, E., and *Sato, T.

Deubiquitinating enzymes UBP12 and UBP13 stabilize the brassinosteroid receptor BRI1.

EMBO Rep., e53354 (2022) Linkプレスリリース


栄養バランスに応じた植物の成長制御に重要な膜交通制御因子を発見

Hasegawa, Y., Reyes, T.H., Uemura, T., Baral, A., Fujimaki, A., Luo, Y., Morita, Y., Saeki, Y., Maekawa, S., Yasuda, S., Mukuta, K., Fukao, Y., Tanaka, K., Nakano, A., Takagi, J., Bhalerao, R.P., Yamaguchi, J., and *Sato, T.

The TGN/EE SNARE protein SYP61 and the ubiquitin ligase ATL31 cooperatively regulate plant responses to carbon/nitrogen conditions in Arabidopsis.

Plant Cell, 34, 1354-1374 (2022) Linkプレスリリース

我々ヒトと同様に,栄養バランスの乱れは様々なかたちで植物の成長に悪影響を及ぼします。特に,代謝の根幹を担う糖(炭素源,C)と窒素(N)のバランスは重要で,C/Nバランスの乱れは発芽阻害や葉の老化促進,バイオマスの低下に繋がることが知られています。しかし,こうしたC/Nバランス異常への適応メカニズムはあまりわかっていません。本研究では,細胞内の膜交通制御因子であるSNAREタンパク質SYP61が植物のC/Nストレス耐性付与に重要な役割を果たすことを明らかにしました。さらに,SYP61の機能がユビキチン化修飾によって制御される可能性が示され,環境ストレスに応じた膜交通制御機構について新たな知見が得られました。